GNSS観測の仰角マスクは何度にすべき? — 15度という標準の根拠と、解析ソフト側を合わせないと起きること


GNSS観測の仰角マスクは何度にすべき? — 15度という標準の根拠と、解析ソフト側を合わせないと起きること

GNSS観測の仰角マスクは何度にすべき? — 15度という標準の根拠と、解析ソフト側を合わせないと起きること

15度で切ります。

受信機の設定画面で「Elevation Mask」の欄に何を入れるか、毎回同じ値を打ち込んでいませんか。では、その15度はどこから来た数字なのでしょうか。

答えは作業規程の準則です。GNSS観測の最低高度角は15度を標準とすると定められています。ただし本題はその先で——同じ準則が「基線解析に使う最低高度角も、観測時に設定した値にせよ」と書いていることのほうが、現場では効きます。


15度はどこに書いてあるか

公共測量の基準となる「作業規程の準則」(平成20年3月31日国土交通省告示第413号)は、GNSS観測の方法を定める条文のなかで、GNSS衛星の最低高度角は15度を標準とすると規定しています。国土地理院が令和6年3月に公開した「GNSS標高測量マニュアル(案)」も、スタティック法によるGNSS観測の標準を次のようにまとめています。

項目 3級水準測量 4級水準測量
観測時間 5時間以上 2時間以上
データ取得間隔 30秒以下 30秒以下
最低高度角 15度を標準 15度を標準
アンテナ高測定単位 mm mm
使用衛星数(GPS・準天頂衛星) 5衛星以上 5衛星以上
使用衛星数(GLONASS併用時) 6衛星以上 6衛星以上

このマニュアルは案であり、同マニュアル第2条により、そのままの形で公共測量の作業方法として適用することはできません。ここでは「15度」という数字が公的な資料でどう扱われているかの傍証として引用しています。

GLONASSを併用する場合は「GPS・準天頂衛星」と「GLONASS衛星」をそれぞれ2衛星以上使うこと、という条件も付いています。衛星の総数だけ数えて安心してはいけない、という条文です。


なぜ低い衛星を捨てるのか——通る大気の長さが違う

理由は単純で、低い衛星ほど信号が長く大気の中を通るからです。

大気を平らな層と近似すると、真上(仰角90度)から来る信号が通る距離を1としたとき、仰角θの信号が通る距離はおよそ 1 ÷ sinθ 倍になります。

仰角 大気を通る距離(真上を1として)
90度 1.0
30度 2.0
15度 約3.9
10度 約5.8
5度 約11.5

15度でおよそ4倍、5度まで下げるとおよそ11倍です。電離層遅延も対流圏遅延も、この倍率でそのまま増えます

この1÷sinθは平らな大気の近似で、実際には地球の丸みのぶん、仰角10度より低いところでは値が大きく出すぎます。それでも「15度と5度では桁が違う」という感覚をつかむには十分です。

長くなるのは経路だけではありません。低い衛星には、次の3つが同時にのしかかります。

電離層の影響とビル壁面からのマルチパスがGNSS受信機に届く経路を示した図(夏のRTK測位品質の記事より)

図で見ると分かりやすいのですが、マルチパスは横から来ます。仰角の低い衛星を切るということは、横から入ってくる反射波を、そもそも計算に入れないという判断です。


ここが本題——解析ソフトの設定を合わせていますか

準則は、観測時の設定だけでなく、基線解析に使う高度角についても書いています。

基線解析に使用するGNSS衛星の最低高度角は、観測時に設定した最低高度角とする。

短い一文ですが、現場ではここでずれます。よくある3つのパターンです。

パターン1:受信機は15度、解析ソフトの既定値は10度

解析ソフトの初期設定が10度や5度になっていると、観測時に切ったせいで存在しないデータを、解析側が期待することになります。単に「使える衛星が少ない」と判定されるだけで済むこともありますが、エポックによって解ける・解けないが変わり、再現しない不安定さとして現れます。

パターン2:受信機は0度で記録、解析で15度に切る

こちらは技術的には可能です。生データを低い角度まで記録しておき、解析時にマスクを掛ける。ただし準則の書き方には合いません。観測時の設定と解析の設定を一致させる、というのが条文の要求です。公共測量として成果を出すなら、記録時点で15度に統一しておくのが素直です。

パターン3:基準局と移動局でマスクが違う

RTKで見落としやすいのがこれです。基準局側と移動局側でマスクが違うと、両方で共通に見えている衛星の数だけが有効になります。移動局を15度、基準局を10度に設定していると、10〜15度の衛星は基準局しか持っていないので使えません。実効的な共通衛星数が、画面に出ている衛星数より少なくなるわけです。

RTKの解が組めるかどうかは共通衛星の数と配置で決まるので、整数バイアスを決める段階でつまずくときは、ここを疑う価値があります。


15度より上げたくなる場所、下げたくなる場所

準則が「15度を標準とする」と書いているのは、それが唯一の正解ではないからです。

上げたくなる場所は、反射源が近い現場です。ビルの谷間、法面の直下、車両が行き来する路上、水面のそば。マスクを20度や25度まで上げるとマルチパスは減ります。ただし——

下げたくなる場所は、空が狭い現場です。山間の谷筋、林道、建物の脇。ここでマスクを上げると、そもそも衛星が足りなくなります。

このトレードオフの正体は衛星配置です。マスクを上げると、使える衛星が天頂側の狭い範囲に集中し、DOPが悪化します。とくに垂直方向(VDOP)は、天頂付近の衛星ばかりになると急速に悪くなる。DOPの読み方と、どの数字を現場で見るかはスカイプロットとDOPの回にまとめました。

準則の使用衛星数条件(GPS・準天頂衛星で5衛星以上)を満たせるかどうかが、実質的な下限です。マルチGNSSが普通になって、この制約はかなり緩みました。GPS単独の時代なら15度でも足りない現場がありましたが、GPS・準天頂・GLONASS・Galileo・BeiDouを併用すれば、15度で切っても十分な数が残ります。複数の測位衛星系を混ぜて使う話の実利は、まさにここに出ます。


現場の地形は「見えないマスク」を掛けてくる

最後にひとつ。受信機の設定を15度にしても、実際に見えている空はもっと狭いことがほとんどです。

東側に崖があれば、その方向の実効的な仰角マスクは30度にも40度にもなります。北側にビルが立っていれば、そちらは完全に塞がっています。受信機の設定値は上限であって、実際に信号が届く角度ではありません。

だから、選点の段階で空の開け具合を記録しておくことが効いてきます。準則系の作業で点の記に障害物の状況を書くのは、後日の再測や解析トラブルの原因究明で、この「実効マスク」を復元するためでもあります。

観測後にログを見返して「なぜあの時間帯だけ解けなかったのか」を追うなら、生データに何が記録されているかを知っておくと早い。RINEXの中身については観測データと航法データの回にまとめてあります。


まとめ

  • GNSS観測の最低高度角は15度が標準(作業規程の準則)
  • 理由は、低い衛星ほど大気を長く通るから。仰角15度で真上の約3.9倍、5度なら約11.5倍
  • 低い衛星は電離層遅延・対流圏遅延・マルチパスの3つを同時に持ち込む
  • 基線解析の最低高度角は、観測時に設定した値に合わせる——準則が明記している。ソフトの既定値のままにしない
  • RTKでは基準局と移動局のマスクを揃える。違うと共通衛星が見かけより減る
  • マスクを上げるとマルチパスは減るが、DOPが悪化する。マルチGNSSでこのトレードオフはかなり緩んだ
  • 地形と建物が掛けてくる実効マスクのほうが、設定値より厳しいことがほとんど

「15度」は経験則に見えて、大気の厚みと反射の入射角という物理から出てきた数字です。設定画面に打ち込むときに、その3.9倍を思い出せると、上げるべき現場と下げてはいけない現場の判断が変わってきます。

出典

  • 国土地理院「作業規程の準則」 https://www.gsi.go.jp/gijyutukanri/gijyutukanri61018.html
  • 国土交通省告示第413号「作業規程の準則」(本文PDF) https://psgsv2.gsi.go.jp/koukyou/jyunsoku/pdf/h28/H28_junsoku_honbun.pdf
  • 国土地理院「GNSS標高測量マニュアル(案)」令和6年3月 https://www.gsi.go.jp/butsuri/data/20240327_GNSSheight1.pdf

本記事の記述は2026年9月時点で公表されている資料に基づきます。準則は改正されることがあるため、公共測量として実施する際は必ず最新版の条文をご確認ください。大気の通過距離の倍率は本記事内の計算による概算です。


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