基準局の座標を間違えたら、測った点はどれだけずれる? — 誤差がそのまま全点に乗るしくみと、現場での気づき方


基準局の座標を間違えたら、測った点はどれだけずれる? — 誤差がそのまま全点に乗るしくみと、現場での気づき方

基準局の座標を間違えたら、測った点はどれだけずれる? — 誤差がそのまま全点に乗るしくみと、現場での気づき方

結論から書くと、基準局の座標の誤りは、その日測った全点にほぼ同じ量・同じ向きで乗ります。1m間違えれば全点が1mずれ、40m間違えれば全点が40mずれます。しかもRTKはFix解を出し続け、精度表示も良いままです。「Fixしている」は「合っている」の証明にはなりません。この記事では、なぜそうなるのか、どんな入力ミスが多いのか、現場でどう切り分けるのかを整理します。

基準局と移動局が同じ衛星を見て、その差から基線ベクトルを求める図

なぜ誤差が「そのまま」乗るのか

RTKが測っているのは、移動局の絶対座標ではありません。基準局から移動局までの相対的な位置の差(基線ベクトル)です。移動局の座標は、最後に足し算で作られます。

移動局の座標 = 基準局に設定した座標 + 基線ベクトル

基線ベクトルのほうは、両局が同じ衛星を同時に見て、共通の誤差(衛星の軌道・時計、電離層・対流圏の遅れ)を打ち消し合って求められます。ここがRTKの精度の源です。

一方、右辺の第1項は「人が入力した数値」でしかありません。受信機はその値が正しいかどうかを検証する手段を持っていません。だから、入力した値が40m間違っていれば、cm級の精度で求めた基線ベクトルに40mの誤りを足し込んで、cm級の表示のまま40mずれた座標が出てきます。

厳密には、基準局座標の誤りは基線ベクトルの解にもごくわずかな影響を与えます(衛星までの方向の計算がわずかに変わるため)。ただし実務で問題になる規模では、上の足し算で入る一定量のずれが圧倒的に支配的です。要するに「全点が平行移動する」と考えて差し支えありません。

精度表示では絶対に気づけない

RTKの品質指標——Fix/Float、水平・垂直の推定精度、比率テストの値——は、いずれも基線ベクトルの内部的な確からしさを評価しています。基準局座標が真値かどうかは、この計算のどこにも入りません。

つまり次の状況が、何の警告もなく成立します。

  • Fix解
  • 水平精度 8mm・垂直精度 15mm の表示
  • 実際の座標は全点が水平に40mずれている

再測しても同じ値が出ます。時間を空けても、別の衛星配置でも、同じ値が出ます。再現性が高いことが、逆に「正しい」という誤った確信を与えるのが、この失敗の一番やっかいなところです。

入力ミスの典型と、ずれる量

# ミスの内容 ずれる量の目安 ずれ方
1 標高を楕円体高の欄に入れた(逆も同様) 日本でおおむね30〜40m台(地域により20〜45m程度) 高さだけ
2 アンテナ高を入れ忘れた/地上高とARPを取り違えた 数十cm〜2m程度 高さだけ
3 旧日本測地系の成果値を世界測地系として入れた 約400m 水平が主
4 元期の違う座標を入れた(ITRFの今期座標を元期の成果として等) 十数年分で数十cm規模 水平・高さとも
5 緯度経度の度分秒と十進度を取り違えた 度〜km規模(桁による) 水平が主
6 「現在位置を基準局座標にする」を押した 数m(単独測位の精度) 水平・高さとも
7 緯度と経度を入れ替えた 日本国内なら地球の裏側級 すぐ分かる

実際に多いのは 1・2・6 です。1と2は高さだけがずれるので、平面図しか見ていないと最後まで気づきません。6は手順として用意されている操作なので、「とりあえず動かしたい」ときに押してしまいがちです。

なお 3・4 は基準局側ではなく配信側で起きることもあります。ネットワーク型RTKやNtrip配信では、基準局座標は補正データの中を流れてきます。その値がどの座標系・どの元期に属するかは補正データ自体には書かれていません(RTKの補正データには何が入っている?の1005メッセージの節を参照)。配信側が成果改定で座標を差し替えれば、利用者の設定を何も変えていなくても、その日から出てくる座標が変わります

電子基準点の解と基準座標系・元期の関係を示す図

現場での切り分け——ずれ方が原因を教えてくれる

やることは1つで、既知点で測ることです。三角点・水準点・電子基準点、あるいは前回の成果が残っている点で構いません。測って、成果値との差を取ります。

差の出方で、原因はかなり絞り込めます。

差の出方 疑うもの
高さだけが数十m 楕円体高と標高の取り違え(表1の#1)
高さだけが数十cm〜数m アンテナ高(表1の#2)
水平が数百m、高さは合っている 測地系の取り違え(表1の#3)
水平・高さとも数十cm 元期の違い(表1の#4)
水平・高さとも数m、毎回同じ 単独測位の座標が基準局に入っている(表1の#6)
毎回ばらつく 基準局座標ではなく測位条件(マルチパス・基線長・大気)

最後の行が重要です。系統誤差(毎回同じ方向に同じ量)なら基準局座標を、ランダム誤差(測るたびに違う)なら測位条件を疑う——この切り分けだけで、原因探しの範囲が半分になります。基線長や大気が効いてくる場面はRTK基線長と測位精度の関係にまとめています。

もう1つ、2点以上の既知点で測ると確度が上がります。2点の差ベクトルがほぼ同じなら平行移動=基準局座標。2点で差が違う向き・違う量なら、基準局座標だけでは説明できない何かが起きています。

作業前の3分でできる予防

  1. 成果表の「高さ」が何の高さかを声に出して確認する。 標高なのか楕円体高なのか。受信機の入力欄がどちらを求めているのかも合わせて確認する
  2. アンテナ高の測り方を、入力欄の定義に合わせる。 地上高なのか、ARP(アンテナ基準点)までなのか、位相中心までなのか。アンテナ位相中心(ARP)で座標が何cmずれるかで扱っている区別です
  3. 測り始める前に、既知点を1点測る。 作業の最初と最後に同じ既知点を測っておけば、その日のデータが後から検証できます

3番目を習慣にしておくと、仮に間違えていてもその日のデータは救えます。基準局座標の誤りは全点に同じ量で乗るので、正しい座標が分かれば後から一括で平行移動して直せるからです。逆に、既知点の記録が無いと、ずれ量が分からず全点を測り直すことになります。日々の点検のやり方はRTKの点検測量でどこまで確認できるかにまとめました。

まとめ

  • 移動局の座標は「基準局座標 + 基線ベクトル」。基準局座標の誤りは全点に同じ量・同じ向きで乗る
  • Fix解・精度表示は基線ベクトルの確からしさしか見ていない。「Fixしている」は「合っている」の証明にならない
  • 多いのは、楕円体高と標高の取り違え(日本でおおむね30〜40m台)、アンテナ高、そして「現在位置を基準局座標にする」の誤操作
  • ずれ方が原因を教えてくれる。高さだけなら高さの定義、水平が数百mなら測地系、毎回ばらつくなら測位条件
  • 作業の最初と最後に既知点を1点測っておけば、間違えても後から一括で直せる

出典

  • 測量に関する基準・基準点 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/sokuchikijun41012.html
  • 基準点成果等閲覧サービス — 国土地理院: https://sokuseikagis1.gsi.go.jp/
  • ジオイド・ジオイドモデル — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/buturisokuchi/geoid2011_00.html
  • 世界測地系 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/datum-main.html
  • RTCM(Radio Technical Commission for Maritime Services): https://www.rtcm.org/

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