西之島の面積はどうやって測る? — 上陸できない島に三角点を置き、海図の低潮線が管轄海域を決めるまで


西之島の面積はどうやって測る? — 上陸できない島に三角点を置き、海図の低潮線が管轄海域を決めるまで

西之島の面積はどうやって測る? — 上陸できない島に三角点を置き、海図の低潮線が管轄海域を決めるまで

答えは「近づかずに測る」です。 噴火が続く西之島には自由に上陸できません。そこで航空機・無人航空機(UAV)・人工衛星・測量船が使われ、撮った写真や電波から海岸線を描き出して面積を出します。ただし写真だけでは縮尺も向きも決まらないため、上陸できたわずかな機会に三角点が据えられました。そして最後に島の輪郭を「管轄海域」に変えるのは、地形図ではなく海図に描かれた低潮線です。

まず、面積がどう変わってきたか

西之島(東京都小笠原村・父島の西北西約130km)は、1973年と2013年の噴火でそれぞれ新しい陸地を作りました。公表されている面積の変遷は、およそ次のとおりです。

時点 面積(およそ) 出どころ
1972年以前 0.07km² 南北650m・東西200mの細長い島
1999年 0.29km² 1973年噴火でできた「旧島」まで含めた値
2016年12月20日 2.72km² 国土地理院の地形図(旧島 0.29km² の約9倍)
2020年8月 約4.1km² 報道・観測にもとづく値

国土地理院が「西之島の面積が約9倍になりました」と発表したのは、この 2.72km² のことです。2万5千分1地形図としては、平成3(1991)年以来25年ぶりの全面更新でした。

ただしこの数字は「増え続けている」という単純な話ではありません。2015年9月には、観測開始以来はじめて面積が前回より 0.04km² 減ったことが確認されています。溶岩が積もる一方で、波が削っているからです。面積は増減する量であって、ある時点の値でしかありません。

本記事の数値は2026年9月時点で公表されている資料に基づくものです。火山活動と侵食で島の形は変わり続けるため、最新値は国土地理院・海上保安庁の公表資料で確認してください。

上陸できない島を、どうやって測るか

火口周辺警報が出ている間、島には近づけません。そのため西之島の計測は、遠くから測る手段を積み重ねてきました。

  • 航空機からの観測:海上保安庁の観測機が上空から撮影し、海岸線の位置を判読する。「西側に約170m拡大」といった報道の元になる数値です
  • 無人航空機(UAV):国土地理院は2014年3月、西之島の空中写真を無人航空機で自動撮影しています。人を乗せずに火口の近くまで行けるので、噴火中でも撮れる
  • 人工衛星:2017年5月の拡大は、Landsat 8 号の画像解析でも確認されました
  • 合成開口レーダー(SAR):「だいち2号」の干渉SAR(InSAR)で、2020年6月19日から7月3日までの14日間に火砕丘の直径が1.5倍に広がったことが捉えられています。雲があっても夜でも観測できるのがレーダーの強みです
  • 測量船:海上保安庁の測量船が周辺海域の水深を測る。陸地の面積だけでなく、海面下の地形も測らないと「島がどこまで浅瀬か」が分かりません

RTK-GNSS の現場感覚で言えば、これはドローン写真測量を、機体を近づけられない条件でやっているようなものです。

写真で測るには、地上に基準点がいる

ここが測量の話として面白いところです。空中写真から地形を起こす作業(写真測量/SfM)は、写真を重ねて立体を作るところまでは基準点なしでもできます。しかし、そのままでは大きさ・向き・位置が決まりません。実寸と座標を与えるのが、地上に置いた基準点(GCP)です。

西之島でもこれは同じでした。そして、その基準点がたどった経緯がこの島らしいのです。

時期 何が起きたか
2016年10月 海洋基本計画の施策として、国土地理院が上陸し三角点を設置(一等三角点「西之島」・三等三角点「西之島南」)
2017年4月 再噴火。一等三角点「西之島」が噴出した溶岩に埋没
2019年10月5〜6日 再び上陸し、一等三角点を再設置。あわせて三等三角点「西之島南」も再測量(改測)

国土地理院の発表タイトルが「西之島の測量の基準となる一等三角点を再設置しました」となっているのは、この経緯があるからです。基準点が溶岩に飲まれたので、置き直しに行った——測量の話としてはなかなか激しい。

現地での作業内容も具体的です。一等三角点では GNSS 観測を行い、さらに平均海面を求めるためのブイをアンカーに固定しています。水平位置だけでなく、高さの基準も現地で作っているわけです。三等三角点「西之島南」へは、南海岸から溶岩地帯を歩いて移動しています。

空中写真に実寸を与えるのは地上の基準点

三角点を置いたからこそ、地形図と海図を作れました。写真と衛星画像だけでは「たぶんこのくらい」までしか言えません。島に置かれたたった数点の座標が、遠隔で撮った画像すべてに実寸を与えています。

面積より大きいのは、管轄海域の話

地形図が新しくなると、島の形が変わります。そして島の形が変わると、日本の管轄海域が変わります。国土地理院と海上保安庁は、西之島について2度の地図・海図の発行を行いました。

発行 もとにした測量 島の面積変化 管轄海域の変化
2017年6月30日(新規) 2016年12月20日時点 噴火前から +2.43km² 50km² 増加
2019年5月31日(改版) 2018年7月の水路測量・同年12月の空中写真 前の地図から +0.17km² さらに約50km² 拡大(領海 約4km²・EEZ 約46km²)

2度目がおもしろいところです。島そのものは 0.17km² しか増えていないのに、管轄海域は約50km² 広がった。およそ 300倍です。理由は、増えた向きが「西側」だったこと。陸域が外へ張り出す方向に伸びると、その外側の帯ごと動くからです。

なぜそうなるのか。領海の外側の限界は、基線から12海里(約22.2km)の距離で決まります。そしてこの基線の原則は「海図に記載された低潮線」です。つまり——

  1. 島の海岸線が西へ動く
  2. 基線(低潮線)が西へ動く
  3. そこから12海里の円が西へ動く
  4. 領海・接続水域・排他的経済水域(EEZ)が丸ごとずれる

海岸線が100m動けば、その外側に広がる帯も100m動く。細長い距離の変化が、面で効いてくる構図です。

島を中心にした12海里の領海と、その外側のEEZ

ここで効いてくるのが「低潮線」という言葉です。地形図に描かれる海岸線は満潮時の水際線で、海図の低潮線は潮が最も引いたときの水際線です。同じ島でも、どちらの線を採るかで位置が変わります。管轄海域の根拠になるのは後者です。だから海上保安庁は、火山活動が落ち着いて安全が確認された段階で精密な水路測量を実施して新たな低潮線を確定する、という手順を取ります。地形図の改版と海図の改版が別々に語られるのは、この違いがあるためです。

「面積が増えた」と言えるまでに必要なもの

ここまでを測量の手順として並べると、こうなります。

段階 何をするか 誰が 西之島での実例
1 遠隔(航空機・UAV・衛星・SAR)で形を捉える 海上保安庁・国土地理院 2014年3月のUAV自動撮影ほか
2 上陸できる機会に基準点(三角点)を置く 国土地理院 2016年10月設置・2019年10月再設置
3 空中写真を撮り、基準点で実寸と座標を与える 国土地理院 2018年12月の空中写真撮影
4 周辺海域の水深を測る 海上保安庁 2018年7月の航空機による水路測量
5 地形図を発行・改版する(陸の形) 国土地理院 2017年6月30日/2019年5月31日
6 海図を発行・改版し低潮線を確定する(海の基準) 海上保安庁 同上
7 基線から12海里で管轄海域が決まる 2度あわせて約100km²

「島の面積は約4.1km²」という一文の背後に、これだけの分業があります。逆に言えば、どの段階の数字を引用しているかで意味が違います。速報の「東京ドーム○個分」は段階1の判読値、地形図改版の面積は段階3を経た値、管轄海域の拡大は段階6まで進んだ値です。

測量の目で見ると、何が学べるか

西之島は、測量の教科書が普段は書かない前提をむき出しにしてくれます。

  • 基準点は不滅ではない。一等三角点でも溶岩に埋まる。「基準」は自然が変えてくる
  • 海岸線には定義がいる。満潮の線か干潮の線かで、国の面積も管轄海域も変わる
  • 面積は時点付きの量。増える年もあれば減る年もある
  • 遠隔測量には必ず地上の足がかりが要る。ドローンでも衛星でも、実寸を与えるのは地上の点

日本の測地系で「座標には元期が必要」という話をしますが、西之島は地形そのものに元期が要る極端な例です。

まとめ

  • 西之島の面積は、航空機・UAV・衛星・SAR・測量船を組み合わせて近づかずに測られてきた
  • 2016年10月に一等三角点と三等三角点が置かれ、2017年の噴火で一等三角点が溶岩に埋没、2019年10月に再設置された
  • 地形図・海図は2017年と2019年の2度発行され、管轄海域は各回 約50km² ずつ拡大した。
    とくに2019年の改版は、島の増加が 0.17km² なのに管轄海域は約50km²——約300倍
  • 管轄海域を決めるのは地形図ではなく、海図に記載された低潮線(基線)から12海里
  • 面積は増えるだけではない。2015年には前回比で減った回もある。数値は必ず「いつの値か」とセット

出典

  • 西之島の面積が約9倍になりました — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/kikakuchousei/kikakuchousei61003.html
  • 西之島の地形図と海図を改版 〜我が国の管轄海域がさらに約50平方キロメートル拡大〜 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/kanri/kanri61003.html
  • 西之島の測量の基準となる一等三角点を再設置しました。 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/sokuchikijun41033.html
  • 西之島の空中写真を無人航空機で初めて自動撮影 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/kenkyukanri/kenkyukanri60006.html
  • 西之島のだいち2号SARデータ解析結果 — 国土地理院: https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R1_nishinoshima.html
  • 西之島 — 海域火山データベース(海上保安庁 海洋情報部): https://www1.kaiho.mlit.go.jp/kaiikiDB/kaiyo18-2.htm
  • コラム 西之島の噴火で拡がる領海 — 国土交通白書: https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h26/hakusho/h27/html/n2260c00.html
  • 西之島 Nishinoshima(東京都) — 気象庁: https://www.data.jma.go.jp/vois/data/tokyo/326_Nishinoshima/326_index.html
  • 西之島 — Wikipedia(面積推移の年表・上陸調査の経過): https://ja.wikipedia.org/wiki/西之島

三角点の設置・再設置、2度の地図発行と管轄海域の拡大量、2016年12月20日時点の面積 2.72km² は、上記の国土地理院の発表ページ(一次資料)で確認した値です。1972年以前・1999年・2020年の面積は報道等の二次資料からの引用で、観測日ごとの原資料までは当たれていません。厳密な比較に使う場合は一次資料をご確認ください。


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