
RTKがFixしない場所はどう測る? — 原因の切り分けとトータルステーション併用の手順
高架下や樹木の下でRTKがFixしない——このとき最初にやることは、原因が「上空が塞がれている」のか「反射波(マルチパス)」なのかを切り分けることです。上空視界の問題なら粘っても直りません。空の開けた場所で GNSS が座標を決め、トータルステーション(TS)で見通しをつないで座標を運ぶのが定石です。そのとき成果の精度を決めるのは、TS の性能ではなく元になる GNSS 点の測り方です。
GeoDiveExa(GDE)で RTK-GNSS の位置調査をしている目線で、現場の判断順に整理します。

なぜFixしないのか、を先に切り分ける
同じ「Fixしない」でも、原因によって打つ手が違います。
| 症状 | 疑うこと | 手当て |
|---|---|---|
| 可視衛星が極端に少ない・DOPが悪い | 上空が物理的に塞がれている | 時間帯を変える/位置を変える/TS併用 |
| 衛星は見えているのにFixが決まらない・すぐ外れる | 反射波(マルチパス) | アンテナ位置を数十cm動かす/吸収体の陰に入れない |
| Fixするが座標が数cm揺れる | 弱いマルチパス、または基線が長い | 複数回測位して平均/基準局を近くにする |
| 突然すべて止まる | 補正データの途絶 | Ntrip途絶時の立て直しを参照 |
上空視界の問題なのか電波品質の問題なのかは、SkyPlot と DOP を見るのが最短です(SkyPlotとDOPの読み方)。衛星が北側にしか無い、というような配置が見えていれば、粘っても改善しません。逆に配置は良いのに Fix が決まらないなら、反射の問題を疑います(夏のRTK-GNSS測位品質を守るでも触れたとおり、市街地の照り返しや金属面は効きます)。

段階1:GNSS のまま粘る
TS を出す前に、費用ゼロで試せる手が三つあります。
1. 時間帯を変える
衛星配置は時間とともに変わります。半日ずらすだけで、塞がれていない方角に衛星が回ってくることがあります。事前に SkyPlot で「この現場ならこの時間帯」を当たっておけば、再訪の手間を減らせます。
2. アンテナを数十cm動かす
マルチパスは反射面との位置関係で決まるので、ポールを少し傾けたり、立ち位置を半歩ずらしたりするだけで改善することがあります。「動かして直るならマルチパス」という切り分けにもなります。
3. 補正の経路を変える
ネットワーク型RTK(VRS)と単独CLASでは、補正の届き方が違います(ネットワーク型RTK(VRS)と単独CLAS)。携帯圏外で VRS が使えない現場なら CLAS、逆に衛星からの補正信号が遮られる場所なら VRS、という具合に、遮られているのが「測位信号」なのか「補正の配信経路」なのかで選び分けます。
それでもだめなら、GNSSでは測れない場所と判断して次に進みます。粘り続けるより、割り切りが早いほうが結果的に精度も工程も守れます。
段階2:見える場所から「持ち込む」
TS 併用の考え方は単純です。上空の開けた場所で GNSS が座標を決め、そこから TS で見通しをつないで、空の見えない点まで座標を運ぶ。
大まかな流れはこうなります。
- 上空の開けた場所に、互いに見通せる2点以上を設定する(見通しが取れることが必須)
- その各点を RTK-GNSS でしっかり測る。1回で済ませず、複数回測位して平均を取る
- TS を据え、後方交会または既知点上に器械点を設ける
- TS で目的の点(空の見えない点)を放射観測する
ここで押さえておきたいのが誤差の伝わり方です。
| 段階 | 主な誤差 | 感覚的な大きさ |
|---|---|---|
| RTK で決めた既知点の座標 | GNSS の測位誤差 | 数cm |
| TS の器械点設置(後方交会) | 既知点の誤差+観測誤差 | 既知点の誤差を引き継ぐ |
| TS の放射観測 | 測距・測角誤差 | 短距離なら小さい |
元になる GNSS 点の誤差は、そのまま TS で測った点に載ります。 ここを数cmで抑えられていなければ、TS がどれだけ精密でも成果は良くなりません。逆に言えば、GNSS 点さえ丁寧に押さえておけば、TS 側は短距離の放射観測なので誤差の上乗せは小さくて済みます。
また、既知点どうしの距離が近すぎると、後方交会の姿勢が不安定になります。見通しが取れる範囲でできるだけ離すのが基本です。基線が長いほど RTK の精度が落ちる話(基線長と精度の関係)とは別の話なので、混同しないようにします。
段階3:既知の基準点を使えないか
現場の近くに三角点・水準点・電子基準点付属標があるなら、GNSS で新たに点を作らず、公表された成果をそのまま器械点や後視点に使うのがいちばん確実です。
- 点の所在と現況は「点の記」で事前に確認する(「点の記」と基準点成果等閲覧サービスの使い方)
- その成果がいつの測地成果か、停止・訂正が出ていないかを確認する(公表された成果が「訂正」されることがある)
- 使う前に、別の既知点で RTK のヘルスチェックをしておく(作業前に既知点で確認する現場ヘルスチェック)
ここで測地系を取り違えると、数cmの議論をしていたはずが数百mずれます。手元の成果が旧日本測地系のものか世界測地系のものかは、必ず突き合わせてください(測地系が書いていない座標データの見分け方)。
記録に残すこと
GNSS と TS を混ぜた測り方をすると、後から「この点はどうやって出したのか」が分からなくなりがちです。成果の再現性を守るために、次を点ごとに残しておきます。
| 残すもの | 理由 |
|---|---|
| 測位方法(RTK直接/TS放射) | 精度の根拠が違う |
| TS の場合、器械点・後視点に使った点 | 誤差の連鎖をたどれる |
| 元の GNSS 点の Fix 状況・観測回数 | 成果の信頼度を後から評価できる |
| 使用した測地系・元期 | 測地成果の混在を防ぐ |
| 現地写真 | 上空の塞がり具合が後から分かる(マーク写真の自動ひも付け) |
GDE では観測点と写真・メモを一緒に残せるようにしてあります。TS 併用のように手順が枝分かれする作業ほど、その場のメモが効いてきます(入力データを失わない自動保存)。
まとめ
- 「Fixしない」は、上空視界の問題とマルチパス・補正経路の問題をまず切り分ける
- GNSS のまま粘る手(時間帯を変える・アンテナを動かす・補正経路を変える)を先に試す
- だめなら、開けた場所で GNSS が座標を決め、TS で見通しをつないで運ぶ
- 元の GNSS 点の誤差はそのまま伝わる。元の点を丁寧に測るのが最重要
- 近くに公表成果のある基準点があれば、それを使うのがいちばん確実。ただし測地成果の版と訂正情報を確認する
- 混成した測り方をしたときほど、どの点をどう出したかを記録に残す
出典
- 国土地理院「作業規程の準則」 https://www.gsi.go.jp/gijyutukanri/gijyutukanri61018.html
- 国土地理院「基準点成果等閲覧サービス」 https://sokuseikagis1.gsi.go.jp/
- 国土地理院「基準点成果の取扱い」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/seika_toriathukai.html
- 内閣府「みちびき(準天頂衛星システム)」 https://qzss.go.jp/
具体的な観測方法・許容誤差・記録様式は、発注仕様や適用する作業規程によって定められています。本記事は現場判断の考え方を整理した参考情報です。実務では必ず適用規程と発注者の指示をご確認ください。
次に確認する
- その現場でいつ衛星配置が良くなるか、SkyPlotとDOPの読み方を確認する — 「粘るか、TSを出すか」の判断がその場でできるようになります
- Fixが決まりにくい/外れる原因(電離層・マルチパス・熱)への対策を確認する — 反射波が疑わしいときの動かし方が分かります
- TSの元になるGNSS点が本当に合っているか、既知点でのヘルスチェック手順を確認する — 誤差の出発点を潰しておく作業です
- 衛星から位置が決まるまでを図で確認する(GeoPrism JP) — なぜ上空視界が要るのか、原理から納得できます
- 「見通しをつないで座標を運ぶ」やり方が、そもそもどこから来たのかを確認する(GeoPrism JP) — 三角測量の時代から続く考え方と、GNSSで何が変わったかの話です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第11章「cm級測位の現場」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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