
RTKの補正データには何が入っている? — マウントポイント表に並ぶ1005・1074・1084の意味
大きく分けて2種類です。 「基準局がどこにあるか」を伝えるメッセージと、「基準局がいま何を受信しているか」という生の観測値を伝えるメッセージ。Ntrip配信サービスのマウントポイント表に並ぶ 1005 1074 1084 1094 1124 のような数字は、その中身を示すRTCMのメッセージ番号です。
RTCMとは何か
RTCMは Radio Technical Commission for Maritime Services(海事無線技術委員会)の略で、GNSSの補正データ形式を決めているのはその中の SC-104 という専門委員会です。RTK補正の配信でいま実際に使われているのはバージョン3系(規格番号 RTCM 10403.x)で、2系(10402.x)の固定長フォーマットに比べて、可変長メッセージ+メッセージ全体に1つのCRCという構成になり、RTKに必要なデータ量がおおむね半分程度に収まるようになりました。
Ntrip(Networked Transport of RTCM via Internet Protocol)という名前のとおり、Ntripは「RTCMをインターネットで運ぶ」ための仕組みです。つまり現場でつながっているのは「Ntripという回線」と「RTCMという荷物」の二段構えで、片方の話だけでは切り分けができません。回線側の話はNtripが切れたときの立て直し方にまとめてあります。この記事は荷物の中身のほうです。
番号は「1000番台の4桁」で、桁の意味が決まっている
RTCM 3のメッセージ番号は1001から始まる4桁の数字です。現場で目にする主なものを整理します。
| 番号 | 中身 | 現場での意味 |
|---|---|---|
| 1005 | 基準局アンテナ位置(ECEF直交座標) | これが来ないとRTKは始まらない |
| 1006 | 1005+アンテナ高 | 1005の代わりに流れることがある |
| 1007 / 1008 | アンテナ記述子(機種名など) | 位相中心補正のための情報 |
| 1033 | 受信機・アンテナの記述子 | 同上。機種の食い違いに気づける |
| 1013 | システムパラメータ(GPS週番号など) | 補助情報 |
| 1019 / 1020 / 1042 / 1044 / 1045・1046 | 各系の軌道暦(GPS/GLONASS/BeiDou/QZSS/Galileo) | 初期捕捉を早める補助 |
| 1230 | GLONASSのコード・位相バイアス | 異メーカー間でGLONASSを使うときに効く |
| 1071〜1077 | GPSの観測値(MSM1〜MSM7) | 生の距離・位相 |
| 1081〜1087 | GLONASSの観測値 | 同上 |
| 1091〜1097 | Galileoの観測値 | 同上 |
| 1101〜1107 | SBASの観測値 | 同上 |
| 1111〜1117 | QZSS(みちびき)の観測値 | これが無いとみちびきを相対測位に使えない |
| 1121〜1127 | BeiDouの観測値 | 同上 |
読み方のコツは2つだけです。
- 十の位までで衛星システムが決まる。 107x=GPS、108x=GLONASS、109x=Galileo、111x=QZSS、112x=BeiDou。
- 一の位が「詳しさのレベル」。 MSM1〜MSM7の番号で、末尾4(MSM4)と末尾7(MSM7)が実用上の主流です。
つまり 1074 1084 1094 1124 と書いてあるマウントポイントは、GPS・GLONASS・Galileo・BeiDouの4系統をMSM4で流しているという意味になります。ここに 1114 が無ければ、みちびきの観測値は流れてきません。

MSMとは何だったのか
MSM(Multiple Signal Messages)は、衛星システムが増え続けても同じ書き方で観測値を運べるようにした共通フォーマットです。RTCM 3の初期には、GPS用(1001〜1004)とGLONASS用(1009〜1012)で別々のメッセージが定義されていました。この方式では、Galileo・BeiDou・QZSSが加わるたびに新しい形式を足すことになります。MSMは「衛星と信号を識別する枠」を先に決めて、どの系でも同じ構造で疑似距離・搬送波位相・信号強度(と、レベルによってはドップラー)を並べる設計にしました。
MSM4とMSM7でよく問題になるのはこの差です。
| MSM4 | MSM7 | |
|---|---|---|
| 疑似距離・搬送波位相・信号強度 | あり | あり |
| 分解能 | 標準 | より細かい |
| ドップラー(位相変化率) | なし | あり |
| データ量 | 小さい | 大きい |
基線が短く、通信が細い現場ではMSM4で足りることが多く、長基線や移動体ではMSM7が有利、というのが大まかな使い分けです。ただし受信機側がMSM7に対応していなければ、流しても解釈されません。「配信は7だが受信機は4までしか読まない」という組み合わせで、衛星は見えているのにFixしない、という切り分けにくい状態が起こります。
現場で効いてくるのは、結局この3つ
1. 1005が来ているか
RTKは「基準局と移動局の差」を取る測り方です。基準局の座標が分からなければ、差を取っても座標になりません。 1005(または1006)は数十秒に1回程度しか流れないため、接続した直後にこのメッセージを取り逃すと、観測値だけが流れているのにFixに至らない、という状態になります。受信機の画面に「基準局座標未受信」に相当する表示があれば、まずここを疑うのが早道です。
2. 1005の座標は「いつの、どの座標系」か
1005が運ぶのは地心直交座標(ECEF)の数値そのもので、その値がどの座標系のどの元期に属するかは、メッセージの中には書かれていません。配信側が管理している情報です。ここが、基準点成果の改定や地殻変動補正の話とつながります。

配信サービスが基準局座標を新しい成果へ差し替えたとき、利用者側の設定を変えていなくても、その日から出てくる座標が変わります。過去データと突き合わせるときは、いつの成果に基づく配信だったかを記録に残しておくと後で助かります。元期と今期の関係そのものは元期・今期の座標がどう違うかの図解が分かりやすいはずです。
3. 自分が使いたい衛星系が流れているか
マルチGNSSで衛星数を稼ぐ運用をしていても、補正側にその系のMSMが無ければ、その衛星は相対測位には使えません(単独測位には使えるので、衛星数の表示だけを見ていると気づきにくい)。みちびきを当てにしている現場で 111x が配信リストに無い、というのは実際にありうる話です。衛星系ごとの性格はマルチGNSSで何が変わるかと合わせて考えると整理しやすくなります。
「Fixしない」ときの切り分けに使う
RTCMのメッセージ番号が読めると、原因の切り分けが一段細かくなります。
補正データが届いていない → Ntrip接続・回線の問題
1005/1006 が来ていない → 基準局座標が無い(再接続で拾い直す)
MSMが来ているが系が足りない → 使いたい衛星が相対測位に入っていない
全部来ているのにFloatのまま → 電波環境・基線長・大気の問題
いちばん下まで来てはじめて、マルチパスや大気遅延、基線長といった測位そのものの条件を疑う番になります。それより上の3段は、データの中身を見れば数十秒で判断できるものです。受信機やアプリによっては、受信中のメッセージ番号を一覧表示できるものもあります。
まとめ
- Ntripが運んでいる荷物の正体が RTCM。RTK配信で使われているのは3系(10403.x)
- マウントポイント表の4桁の数字はメッセージ番号。107x=GPS、108x=GLONASS、109x=Galileo、111x=QZSS、112x=BeiDou
- 末尾の数字はMSMのレベル。MSM4は軽く、MSM7は細かくドップラー付き
- 1005(基準局座標)が来ないとRTKは成立しない。取り逃しやすいので接続直後に確認する
- 1005の座標がどの座標系・どの元期かはメッセージには書かれていない。配信側の成果改定で結果が変わりうる
- 使いたい衛星系のMSMが配信に含まれているかは、衛星数の表示だけでは分からない
出典
- RTCM(Radio Technical Commission for Maritime Services)公式 https://www.rtcm.org/
- RTCM SC-104(規格の版と構成の概要) https://en.wikipedia.org/wiki/RTCM_SC-104
- An RTCM 3 message cheat sheet | SNIP https://www.use-snip.com/kb/knowledge-base/an-rtcm-message-cheat-sheet/
- New additions in RTCM-3 and What is MSM | Tersus GNSS https://www.tersus-gnss.com/tech_blog/new-additions-in-rtcm3-and-What-is-msm
- RTCM Version 3.0 | NovAtel Waypoint ドキュメント https://docs.novatel.com/Waypoint/Content/Utilities/RTCM_Version_3.htm
記載は2026年8月時点の公開資料にもとづく整理です。RTCMの規格は改訂が続いており、配信されるメッセージの組み合わせもサービスごとに異なります。実際の配信内容は利用中のサービスの仕様をご確認ください。
次に確認する
- Ntripが切れたときに現場をどう立て直すかを確認する — 補正データが届かないときの回線側の切り分けです
- ネットワーク型RTK(VRS)とCLASの補正がどこから来るのかを確認する — 基準局が実在しない配信方式との違いです
- アンテナ位相中心(ARP)で座標が何cmずれるかを確認する — 1007・1033が運んでいる情報が効いてくる場面です
- 元期と今期でGNSSの座標がどう食い違うかを確認する(GeoPrism JP) — 基準局座標の「いつの座標か」を図で整理しています
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第11章「cm級測位の現場」(Kindle Unlimited対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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