
フォッサマグナとは? — 本州を横切る「大きな溝」の深さと、いまも縮み続ける境界
フォッサマグナとは、本州の中央を南北に走る巨大な溝状の地質構造です。ラテン語で「大きな溝」の意味。古い岩盤がU字型にえぐれ、そこに新しい地層が厚く溜まっています。その厚さは平野部で地下およそ6,000m、山地では9,000mにも及ぶとされます。そしてこの帯は過去の遺物ではなく、いまも東西に縮み続けていることが、電子基準点の観測から分かっています。
以前公開したみちびき(CLAS)と九州は2つに分断されるでは、九州を割る別府-島原地溝帯を取り上げました。今回はその本州版です。地学の雑学から入って、最後はRTK-GNSS測量の現場で何を意味するかまで降りてきます。
1. フォッサマグナは「線」ではなく「面」
まず、いちばん誤解されている点から。
フォッサマグナと糸魚川静岡構造線(糸静線)は同じものではありません。
- 糸静線 … フォッサマグナの西の縁にあたる「線」
- フォッサマグナ … 西縁と東縁にはさまれた、広がりを持つ帯(面)
糸静線から東へ、新潟・長野北部・群馬・山梨・静岡東部・関東西部にかけての一帯がフォッサマグナです。東の縁については新発田小出構造線や柏崎千葉構造線が提唱されていますが、諸説あり、現在も定説と言えるものはありません。西縁がはっきり「線」として引けるのに対し、東縁がぼやけているのがこの構造の特徴です。
| 位置 | はっきり度 | |
|---|---|---|
| 西縁 | 糸魚川静岡構造線 | 断層露頭が見られるほど明瞭 |
| 東縁 | 新発田小出構造線/柏崎千葉構造線ほか | 諸説あり、結論は出ていない |
命名したのは明治のお雇い外国人、地質学者ハインリッヒ・エドムント・ナウマンです。1885年の論文で本州中央を横切る地質構造の断絶を報告し、翌1886年に “Fossa Magna” と名付けました。ナウマンゾウのナウマンと同じ人物です。
2. 「溝」の正体 — 地質がまるごと入れ替わる
フォッサマグナが劇的なのは、線をまたぐと地層の年代が桁違いに変わる点です。
- 糸静線の西側(飛騨山脈など)… 大部分が中生代・古生代の古い地層
- フォッサマグナの内部(頸城山塊など)… 大部分が2,500万年前以降の堆積物・火山噴出物
古い岩盤が途切れ、そこに新しい地層が数千メートル分も詰まっている。地質断面図で見ると、年代の境界がきれいなU字型を描きます。このU字の底までの深さが、平野部でおよそ6,000m、山地では9,000mに達するとされています。東京スカイツリーが約634mですから、その9本〜14本分を地中に沈めた深さです。
なぜこんな溝ができたのか。有力な説明はこうです。
- 約2,000万年前、日本海が開き、日本列島が大陸から離れていった
- このとき列島は中央部で「く」の字に折れる形で引き裂かれ、間に海ができた
- その海に、数百万年かけて砂や泥が厚く溜まった
- その後フィリピン海プレートが伊豆半島を伴って北上・衝突し、溜まった堆積物ごと圧縮された
つまりフォッサマグナは、列島が割れた跡が埋まり、さらに押しつぶされている場所です。中央部を新潟焼山・妙高山・草津白根山・浅間山・八ヶ岳・富士山・箱根山と火山が縦に並ぶのも、この構造と無関係ではないと考えられています。
3. いまも動いているのか — 電子基準点が見ている「ひずみ集中帯」
ここからが測量の話です。
日本列島全体はプレート運動でゆっくり動き続けています(→プレート運動と地殻変動を地図で見る(GeoPrism JP))。しかしその動きは一様ではなく、特定の帯に変形が集中することが分かっています。
それが新潟-神戸ひずみ集中帯です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 範囲 | 山形県庄内沖から新潟・長野北部・岐阜・名古屋・滋賀を経て神戸まで |
| 幅 | およそ200km |
| 変形の向き | 西北西-東南東方向の短縮(縮む) |
| ひずみ速度 | 帯の中心付近でおよそ0.1〜0.2ppm/年と報告されている |
| 見つかった経緯 | 1990年に三角・三辺測量データの解析で見出され、2000年にGEONET(GNSS連続観測)で確認 |
この帯は、北部フォッサマグナと大きく重なります。つまり「大きな溝」は、いまも東西から押されて縮んでいるということです。
0.1〜0.2ppm/年という数字はピンと来にくいので、距離に直します。
- 0.1ppm/年 → 100kmあたり年1cm の短縮
- 0.2ppm/年 → 100kmあたり年2cm の短縮
10年で10〜20cm。測量の世界では、これは無視できない量です。

なお、この観測を支えているのが全国の電子基準点網(GEONET)です。連続観測しているからこそ、「じわじわ縮んでいる」という遅い動きが見えます(→GEONETが止まったら現場はどうなるか)。
4. 現場にとって何を意味するか
「日本列島が年1〜2cm縮んでいる」ことは、RTK-GNSS測量の実務に3つの形で効いてきます。
4.1 座標は「いつの座標か」を必ず持つ
地面が動く以上、座標には基準となる時点が要ります。これが元期(げんき)と今期(こんき)の考え方です。RTKで今日測って出てきた座標は「今日の位置」ですが、測量成果として使う座標は「元期の位置」でなければ整合しません。
4.2 セミダイナミック補正は、まさにこの動きを埋めるためにある
セミダイナミック補正は、定常的な地殻変動の分を毎年更新されるパラメータで補正するしくみです。ひずみ集中帯のように変形が大きい地域では、補正の有無で数cmの差が出ます。パラメータが毎年更新されるのは、動きが毎年積み上がるからです。
4.3 基線が長いほど、変形の影響を受ける
ネットワーク型RTKでも単独基地局でも、基線をまたいで座標を運ぶ以上、その区間の変形は結果に乗ります。ひずみ集中帯を横断するような長い基線を張るときは特に、成果の元期と観測日の差を意識してください(→RTK基線長と測位精度の関係)。

さらに、糸静線上や東縁の一部と考えられている断層ではM7規模の地震が繰り返し起きています。大きな地震があれば、じわじわの変形とは別に、一瞬で数十cm動くこともあります。そのときは成果の公表が停止され、改定を待つことになります(→基準点成果が「止まる」とき)。
5. 行って見られる場所がある
フォッサマグナは学説上の話にとどまりません。
- フォッサマグナパーク(新潟県糸魚川市、1990年開設)… 糸魚川静岡構造線の断層露頭の一部が整備・展示されています。古い岩と新しい岩が接している面を、その場で見られます
- 糸魚川ユネスコ世界ジオパーク… 糸魚川市は2009年に日本で初めて世界ジオパークに認定されました
- 糸魚川静岡構造線は、2020年11月に文化審議会が天然記念物への指定を答申しています
現地に立って、足元の左右で数億年の年代差があると知ると、地図の見え方が変わります。
まとめ
- フォッサマグナは本州中央を南北に走る巨大な溝状の地質構造。ラテン語で「大きな溝」
- 糸静線はその西縁の「線」であって、フォッサマグナそのものではない。東縁は諸説あり未確定
- 溝の厚さは平野部で約6,000m、山地で約9,000m。その下が基盤岩
- 命名はナウマン。1885年に論文で報告し、1886年に Fossa Magna と命名
- 北部フォッサマグナは新潟-神戸ひずみ集中帯と重なり、いまも西北西-東南東方向に短縮している。速度は0.1〜0.2ppm/年(100kmあたり年1〜2cm)と報告されている
- 現場的には、元期と今期の区別・セミダイナミック補正・基線長への配慮として効いてくる
- 断層露頭はフォッサマグナパーク(糸魚川市)で実際に見られる
出典
- 国土地理院「地殻変動の監視」 https://www.gsi.go.jp/chikakuhendou.html
- 国土地理院「電子基準点とGEONET」 https://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html
- 国土地理院 地震予知連絡会報「日本海東縁及び新潟-神戸ひずみ集中帯での地殻変動観測結果」 https://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/report/kaihou90/12_11.pdf
- 地震本部「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」 https://www.jishin.go.jp/resource/column/2008_0805_02/
- 東京大学地震研究所「糸魚川-静岡構造線断層帯における重点的な調査観測」 https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/itoshizu/
- 糸魚川市 フォッサマグナミュージアム https://www.city.itoigawa.lg.jp/dd.aspx?menuid=4563
- 国土地理院「セミダイナミック補正」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/semidyna.html
地質年代・深さ・ひずみ速度は公表資料にもとづく概略値です。フォッサマグナ東縁の位置や成因には現在も複数の説があり、本記事は主要な説を整理したものです。ひずみ速度は解析期間・手法・場所によって値が異なります。数値は2026年8月時点で公表されている資料に基づきます。
次に確認する
- 本州を「横」に切る中央構造線がどこを通るのかを確認する — 縦に切るフォッサマグナに対して、地質境界と活断層帯が別物であることを整理しています
- 九州を割る別府-島原地溝帯と、CLASの補強区分がなぜ九州で分かれるのかを確認する — 本州版の本記事に対する、九州版の地溝帯の話です
- 連続観測している電子基準点が止まると現場が何に困るのかを確認する — ひずみを見つけているGEONETそのものの話です
- 長い基線を張るときに精度がどう変わるのかを確認する — ひずみ集中帯を横断する基線を扱うときの前提知識です
- 日本列島の動きをベクトルと色で地図に描いたものを見る(GeoPrism JP) — 「年1〜2cm」がどの向きに、どこで大きいのかが図で分かります
- 地殻変動の分を毎年のパラメータで埋めるセミダイナミック補正の中身を確認する(GeoConverter Pro) — 縮む地面と固定した成果をどう折り合わせるかの実務です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第7章「地震と動く日本列島」(Kindle Unlimited対応)
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