
中央構造線はどこを通る? — 1000kmの地質境界と、いま動いている約444kmの断層帯は別物
関東から九州まで、日本列島を縦に貫いています。ただし「いま動いている活断層」としての中央構造線は、近畿の金剛山地から四国を横断して大分の由布院に至る約444kmの区間です。 この2つは同じ名前で呼ばれながら、指しているものが違います。地図を見て「うちの県も中央構造線の上だ」と思ったとき、それが地質の境界線なのか、地震を起こす活断層なのかで、意味はまったく変わってきます。
1. 地質の境界としての中央構造線
中央構造線(Median Tectonic Line、MTL)は、日本列島をつくる岩石の並びが東西方向にすぱっと切り替わる境界です。この線を境に、北側を西南日本内帯、南側を西南日本外帯と呼び分けます。
- 北側(内帯)には、高温で低圧の条件で変成した岩石が並ぶ領家帯
- 南側(外帯)には、低温で高圧の条件で変成した岩石が並ぶ三波川帯
まったく違う条件でできた岩石が、真横に接している。これは「離れた場所でできた岩体どうしが、後から横ずれ運動によって並べられた」ことを意味します。長さでいえば関東から九州まで1000kmを超える、日本列島最大級の地質境界です。
おおまかな経路は、関東平野の地下から諏訪湖付近を通り、天竜川に沿って南下し、渥美半島から紀伊半島の北側を横切り、紀淡海峡を渡って四国を東西に貫き、佐田岬半島から九州へ抜ける——というものです。四国では吉野川や国道438号沿いの直線的な谷が、この線をなぞる形で残っています。
ここで重要なのは、地質境界としてのMTLの多くの区間は、いま活動していないという点です。 岩石を並べ替えた運動は数千万年前の話で、いまも動いているのはその一部だけです。
2. 活断層としての「中央構造線断層帯」
一方、地震調査研究推進本部が長期評価の対象としている「中央構造線断層帯(金剛山地東縁-由布院)」は、活断層としての区間です。長期評価(第二版)では、近畿地方の金剛山地の東縁から、和泉山脈の南縁、淡路島南方の海域、四国を東西に横断して伊予灘に至り、別府湾を経て大分県由布市に達する、全長約444kmの断層帯とされています。
この断層帯は、過去の活動時期と断層の形状の違いから10の区間に分けて評価されています。金剛山地東縁区間、五条谷区間、根来区間、紀淡海峡-鳴門海峡区間、讃岐山脈南縁東部区間、讃岐山脈南縁西部区間、石鎚山脈北縁区間、石鎚山脈北縁西部区間、伊予灘区間、豊予海峡-由布院区間です。
つまり「中央構造線断層帯」と一口に言っても、区間ごとに最後に動いた時期も、想定される地震の規模も別々に評価されているということです。「中央構造線が動く」という言い方は、地震を語る文脈ではあまりに大づかみで、実際にはどの区間の話なのかが問われます。
名前が同じで範囲が違う理由
| 呼び方 | 指すもの | おおよその範囲 |
|---|---|---|
| 中央構造線(地質境界) | 内帯と外帯を分ける岩石の境界 | 関東〜九州、1000km超 |
| 中央構造線断層帯 | 活断層として長期評価される断層帯 | 金剛山地東縁〜由布院、約444km |
長野県の分杭峠のように「中央構造線」として知られる場所でも、活断層としての長期評価区間には含まれていない、ということが起こります。看板の「中央構造線」がどちらの意味かは、その場では区別が付きません。
3. 西の端は、九州が割れている場所につながる
活断層としての中央構造線断層帯の西端は、豊予海峡を渡って別府湾から由布院に達します。この先が、以前の記事で扱った別府-島原地溝帯です。
九州のこの帯は、南北方向に引っ張られて地面が沈み込んでいる場所です。横ずれで岩を並べ替えてきた中央構造線が、九州へ入ると引っ張りの場に接続する——地図の上では1本の線に見えても、力のかかり方は東と西で違っています。
みちびきのCLASの補強情報が九州で2つの区分に分かれているのも、この地溝帯を境にしています。地学の話と測位の話が、同じ線の上で交差しているわけです。
4. 「いま動いている」を測るのはGNSS
活断層の過去の活動はトレンチ調査(断層を掘って地層のずれを読む)で調べますが、いま現在のひずみの蓄積を測るのは測位の仕事です。
国土地理院の電子基準点網(GEONET)は全国に約1,300点あり、各点の座標を連続して観測しています。地面が動けば座標が動く。この記録を面的に並べれば、どこにどの向きのひずみが溜まっているかが見えてきます。
- 中央構造線断層帯の主要な区間は右横ずれ(断層をはさんで向こう側が右へずれる)が卓越すると評価されています
- 日々の変化は年間数mm〜数cmのオーダーで、1日の観測では雑音に埋もれます。数年〜十数年の時系列にして初めて傾向が読めます
- 大きな地震が起きれば、その瞬間に座標が飛びます。これが測地成果の改定や補正パラメータの更新につながります
測量の現場から見ると、これは「基準点の座標は固定値ではない」という話に直結します。断層帯をまたぐような広い範囲で観測するとき、成果の元期と今期(いつの時点の座標か)をそろえないと、地殻変動のぶんがそのまま誤差になります。
5. 現場でどう効くか
RTK-GNSSで測る立場からすると、活断層そのものを意識する場面はそう多くありません。基準局と移動局が数km以内なら、地殻変動は両方に同じようにかかるので相殺されます。効いてくるのは次のような場合です。
- 既設の基準点成果と、いま測った座標を比べるとき。成果の時点が古いほど、地殻変動のぶんだけ差が出る
- 過去の図面・点群と現況を重ねるとき。同じ場所のはずが数cm〜数十cmずれる
- 地震の直後。その地域の成果が一時的に停止されたり、補正パラメータが更新されたりする
いずれも「座標は時点つきの値である」という同じ原則から出てきます。中央構造線のような地質の話は、遠い地球史の話に見えて、実は今日の成果表の数字とつながっています。
出典
- 地震調査研究推進本部「中央構造線断層帯(金剛山地東縁-由布院)」 https://www.jishin.go.jp/regional_seismicity/rs_katsudanso/rs_chuokozosen/
- 地震調査研究推進本部「中央構造線断層帯(金剛山地東縁-由布院)の長期評価(第二版)」 https://www.jishin.go.jp/main/chousa/17dec_chi_shikoku/shikoku_01_mtl.pdf
- 国土地理院「電子基準点網(GEONET)による地殻変動監視」 https://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html
- 国土地理院「測地成果2024」 https://www.gsi.go.jp/keikaku/hyoko2024rev-data.html
断層帯の区間区分・全長・活動性の評価は改定されることがあります。記載は2026年8月時点の公表情報に基づきます。防災上の判断は、お住まいの自治体および地震調査研究推進本部の最新の公表資料をご確認ください。
次に確認する
- フォッサマグナが何を分ける境界なのかを確認する — 本州を「横」に切る中央構造線に対し、「縦」に切る境界の話です
- 九州が2つに分断されるという話の中身を確認する — 中央構造線断層帯の西端がつながる別府-島原地溝帯と、CLASの補強区分です
- 電子基準点網が災害時に測量の基準をどう支えるかを確認する — ひずみを測り続ける観測網そのものの話です
- 日本列島が毎年どれだけ動いているかを地図で確認する(GeoPrism JP) — プレート運動と地殻変動を図で見ると、ひずみが溜まる仕組みが分かります
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第7章「地震と動く日本列島」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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