GNSSのアンテナ高は何回測る? — 観測前後に各2回・較差3mm以内という規程と、「案」から正式版で変わった2か所


GNSSのアンテナ高は何回測る? — 観測前後に各2回・較差3mm以内という規程と、「案」から正式版で変わった2か所

GNSSのアンテナ高は何回測る? — 観測前後に各2回・較差3mm以内という規程と、「案」から正式版で変わった2か所

4回です。

GNSS標高測量のマニュアルは、アンテナ高を「観測前に2回、観測後に2回」測り、その4回の平均を採用値とせよと定めています。較差の許容は3mm。1回測って手簿に書く作業ではありません。そして、この条文は令和6年3月の「案」から令和7年4月の正式版までに2か所書き換わっています


条文はこうなっている

引用元は国土地理院「GNSS標高測量による4級水準測量及び簡易水準測量マニュアル」(令和7年4月)第19条第2項第二号です。

二 アンテナ高(電子基準点を除く。)の測定は、次のとおりとする。
イ 鋼製巻尺で標識上面からGNSSアンテナ底面までの距離を垂直に測定することを標準とする。ただし、これと同精度の測定値が得られる方法を使用することもできるものとする。
ロ 測定は、観測前と観測後に各2回行うものとする。
ハ 測定の許容範囲は、次のとおりとする。
(1)観測前の2回の較差及び観測後の2回の較差は、それぞれ3ミリメートル以内とする。
(2)観測前の平均値と観測後の平均値の較差は3ミリメートル以内とする。
ニ アンテナ高は、観測前後4回の測定値の平均値とする。

表にすると、測る回数と点検の掛かり方はこうなります。

いつ 回数 点検されるもの 許容
観測前 2回 2回の較差 3mm
観測後 2回 2回の較差 3mm
前後で 前の平均と後の平均の較差 3mm
採用値 4回の平均

観測方法の表では、アンテナ高の測定単位は「mm」と決められています。センチ単位で丸めて書く欄ではありません。


なぜ「前後」なのか——測っているのは長さではなく、動いていないこと

同じ長さを4回測るなら、まとめて4回測っても平均は取れます。それを前に2回・後に2回に分けているところに、この条文の設計があります。

観測前の2回どうしの較差は、読み違いを潰す点検です。巻尺の目盛りの読み間違い、テープの当てる位置の取り違え。これは同じタイミングで2回測れば見つかります。

いっぽう、観測前の平均と観測後の平均の較差は、別のものを見ています。4級水準測量のスタティック観測は連続2時間以上。その2時間のあいだに、三脚が沈む、脚が緩む、整準がずれる、日射で伸びる——そうした変化が3mmを超えていないかを確かめています。

前後の較差が開いたとき、平均を取って済ませてはいけないのはこのためです。前後で値が違うということは「4回のうちどれが正しいか」ではなく、観測中にアンテナが動いたということで、そのとき動いていたのはアンテナ高だけではありません。

そしてこの誤差は、まっすぐ高さに乗ります。水平位置には効かず、標高だけがずれる。高さだけがおかしいときにアンテナ高を疑うという現場のセオリーは、ここに根拠があります。


「案」から正式版で変わった2か所

このマニュアルには、1年前に公開された前身があります。「GNSS標高測量マニュアル(案)」(令和6年3月)です。同じ第19条第2項第二号を並べると、2か所が書き換わっています。

① 器具の指定がゆるみ、代替が明記された

令和6年3月(案) 令和7年4月(正式版)
本文 鋼巻尺で…垂直に測定することを標準とする。」 鋼製巻尺で…垂直に測定することを標準とする。ただし、これと同精度の測定値が得られる方法を使用することもできるものとする。」
機器の表 鋼巻尺/JIS1級/摘要「―――」 鋼製巻尺/JIS1級/摘要「アンテナ高の測定(コンベックスルール等)

案の段階では、鋼巻尺という器具そのものが指定されていました。正式版では「同精度が得られる方法」への道が開き、機器表の摘要に「コンベックスルール等」が例示されました。器具の名前で縛るのをやめて、精度で縛る書き方に変わっています。

② 較差の読み方が一意になった

案の許容範囲(1)はこう書かれていました。

(1)観測前と観測後の2回測定の較差は3ミリメートル以内とする。

この一文は、「観測前の2回の較差」と「観測後の2回の較差」を指すのか、「観測前と観測後」の較差を指すのか、日本語として両方に読めます。しかも直後の(2)が「観測前の平均値と観測後の平均値の較差」なので、後者に読むと(1)と(2)が重複します。

正式版はここを書き直しました。

(1)観測前の2回の較差及び観測後の2回の較差は、それぞれ3ミリメートル以内とする。

同一タイミング内の較差(1)と前後の較差(2)が、別々の点検であることが明示されました。上の表の3行が独立して掛かる、という読み方が確定したわけです。

条文の改良として地味ですが、精度管理表を作る側にとっては「どの数字を2つ並べて差を書くのか」が変わる話です。


3mmという数字の位置

同じマニュアルには、偏心要素(新点で直接GNSS観測ができないときの本点と偏心点の高低差)の許容も載っています。並べると、3mmがどのくらい厳しいかが見えます。

測るもの 区分 許容
アンテナ高(前後の較差) 4級水準測量 3mm
偏心要素・往復較差(偏心距離100m未満) 3級水準測量 3mm
偏心要素・往復較差(偏心距離100m未満) 4級水準測量 6mm
偏心要素・往復較差(100m以上250m未満) 4級水準測量 10mm
基線ベクトルの較差(高さΔU) 4級水準測量 40mm
既知点間の楕円体高の閉合差 4級水準測量 25mm√ΣS(ΣS:路線長km)

アンテナ高は、レベルで100m先まで往復する偏心測定(4級で6mm)よりも厳しい3mmです。数十cmを巻尺で測るだけの作業に、路線の点検計算より小さい許容が掛かっている。それだけ、ここが素通りされやすいということでもあります。

なお標高そのものの許容は、点検計算で 25mm√ΣS(4級)です。路線長1kmなら25mm。アンテナ高を6mm間違えると、この予算の4分の1を最初に使ってしまう計算になります。


測っているのはARPまで——位相中心ではない

条文は「標識上面からGNSSアンテナ底面まで」と書いています。この底面が ARP(アンテナ基準点) です。電波を実際に受けている位相中心は、そこから数cm上のどこかにあり、しかも仰角と周波数で動きます。

その差は基線解析側で処理します。同マニュアル第23条第3項第三号は、こう定めています。

三 基線解析では、原則としてPCV補正を行うものとする。

つまり分担はこうです。現場は巻尺でARPまでの幾何を4回測る。位相中心のずれは解析ソフトがPCV補正で吸収する。この境目を混ぜて「アンテナ高に位相中心のオフセットを足しておく」ような処理をすると、二重補正になります。ARPと位相中心の関係そのものは別記事で扱いました。


後処理では救えない

スタティック観測の値は、RINEXのヘッダーに ANTENNA: DELTA H/E/N として書き出されます。基線解析は、そこに書かれた数字を正しいものとして扱います。

現場で測り違えた値がそのまま入っていても、点検計算に掛かるとは限りません。環閉合差も重複基線較差も、基線ベクトル(点と点の相対量)を見る点検だからです。同じ点を同じアンテナ高で誤って観測していれば、閉合はきれいに合います。合ったうえで、成果全体が一様にずれる。

「4回測って前後を突き合わせる」という規定が現場側に置かれているのは、後段のどの点検にも掛からない誤差だからです。


現場のチェックリスト

  • 観測前に2回、観測後に2回。手簿には4つとも書く(平均だけ書かない)
  • mm位まで読む
  • 前の2回・後の2回・前後の平均、3つの較差をその場で計算する
  • 前後の平均が3mmを超えたら、平均せず原因を探す(三脚の沈下・緩み・整準のずれ)
  • 測るのは標識上面からアンテナ底面(ARP)まで。位相中心の補正はここに足さない
  • 巻尺はJIS1級。正式版では同精度が得られる方法も可(コンベックスルール等が機器表に例示)
  • 電子基準点は対象外(アンテナ高は成果側で管理されている)

この規程が使えるようになった背景

GNSS標高測量は、長く「マニュアル(案)」の状態でした。令和6年3月版の第2条にはこう書かれています。

このマニュアル(案)は、準則第17条(機器等及び作業方法に関する特例)第3項に規定されるものではなく、公共測量の作業方法として適用することはできない。

これが変わったのが令和7年4月1日です。全国の標高成果がジオイド・モデル「ジオイド2024 日本とその周辺」と電子基準点を基盤とする体系(測地成果2024)に改定され、あわせてGNSS標高測量(3級水準測量)が作業規程の準則に規定されました。4級水準測量と簡易水準測量は、準則第17条第3項に該当するマニュアルとして別途整備——これが本記事の引用元です。

「案」の1年で条文が2か所直された、というのは、その1年のあいだに読み手が付いたということでもあります。

出典

  • 国土地理院「GNSS標高測量による4級水準測量及び簡易水準測量マニュアル」令和7年4月 https://www.gsi.go.jp/common/000268723.pdf
  • 国土地理院「GNSS標高測量マニュアル(案)」令和6年3月 https://www.gsi.go.jp/butsuri/data/20240327_GNSSheight1.pdf
  • 国土地理院「作業規程の準則」を一部改正しました https://www.gsi.go.jp/gijyutukanri/gijyutukanri61018.html

本記事の記述は2026年9月時点で公開されている資料に基づきます。引用した条文は上記2つのマニュアルの本文を確認したものです。3級水準測量および基準点測量については準則本体の規定が適用され、本記事が引用したマニュアルの条文とは別です。準則本体の逐条は本記事では確認していません。実際の作業では、計画機関の指示と最新版の規程・マニュアルを必ずご確認ください。


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