太陽フレアが起きるとRTKはどうなる? — 電離圏が荒れた日にFixが決まらない理由と、現場の立て直し方


太陽フレアが起きるとRTKはどうなる? — 電離圏が荒れた日にFixが決まらない理由と、現場の立て直し方

太陽フレアが起きるとRTKはどうなる? — 電離圏が荒れた日にFixが決まらない理由と、現場の立て直し方

「衛星が落ちる」のではなく、電波の通り道が荒れます。 太陽フレアや磁気嵐で上空の電離圏が乱れると、衛星から届く電波の遅れ方が場所ごと・分ごとにばらつき、基準局との差分が合わなくなります。結果として起きるのは、Fixが決まらない・決まってもすぐ外れる・座標が数十cm跳ぶ、という現場の症状です。RTK-GNSS で位置調査を行う GeoDiveExa(GDE)の目線で、仕組みと当日の立て直し方を整理します。


何が起きているのか — 太陽から現場まで3段階

太陽フレアが測位に効いてくる経路は1本ではありません。到達時間も影響の出方も違う3つが、時間差でやってきます。

段階 何が飛んでくるか 地球到達まで 測位への効き方
① フレアそのもの X線・紫外線 約8分 昼側の電離圏の電子が急増。短波通信が途切れる(デリンジャー現象)。測位への影響は短時間
② 高エネルギー粒子 陽子など 数十分〜数時間 極域の電波障害。衛星機器そのものへの影響
③ コロナ質量放出(CME) プラズマの塊 1〜3日 磁気嵐 → 電離圏嵐。数時間〜数日にわたり電離圏が荒れる。RTKに一番効くのはこれ

ニュースで「大規模な太陽フレアが発生」と流れた日ではなく、その1〜3日後に現場が荒れることがある、というのがポイントです。フレアの発生と現場の不調が結びつきにくいのは、この時間差のせいです。


なぜRTKでも消えないのか — 「差分で消える」の前提が崩れる

GNSS の電波は電離圏を通るときに遅れます(電離圏遅延)。この遅れは電子の量(全電子数, TEC)に比例し、周波数が低いほど大きくなります。対策は2つあります。

  • 二周波受信機で消す:周波数によって遅れ方が違う性質を使い、L1とL2(またはL5)の差から電離圏遅延の主要部分を打ち消す
  • 基準局との差分で消す:基準局と移動局が「同じ空を見ている」なら、電離圏の遅れもほぼ同じなので、差分を取れば消える

RTK が cm を出せるのは主に後者です。ところが電離圏が荒れると、この「同じ空」という前提が崩れます。数kmしか離れていない2点でも電子の量が違う、という状態が起きるためです。差分に残った誤差は、RTK が必ず通る整数値バイアスの決定(Fix) をまっすぐ邪魔します。整数を1つ間違えれば、座標は数十cm単位でずれます。

ネットワークRTKと単独CLASの使い分け

現場で観察される順番はだいたい決まっています。

  1. 初期化が長引く(いつもは十数秒でFixするのに、分単位かかる)
  2. Fixしてもすぐ外れる(Float に落ちる、また戻るを繰り返す)
  3. Fixしているのに座標が跳ぶ(誤ったFix=ミスフィックス。いちばん危ない状態)
  4. 荒れが強いときは衛星のロック外れ(受信が一瞬途切れる。シンチレーションと呼ばれる現象)

3番目が最も厄介です。画面上は「Fix」と出ていて、いつもの安心の表示なのに、値だけが違う。表示を信じ切らずに既知点で確認するという基本が、こういう日にだけ効いてきます。

単独測位(1周波のスマートフォンやカーナビ)はもっと直接に影響を受けます。二周波での打ち消しができないため、電離圏の乱れがそのまま誤差になります。「今日はスマホの地図がやけにずれる」という日は、この可能性があります。


基線長・補正方式によって効き方が変わる

電離圏の乱れは「基準局と移動局の」として効くので、基線が長いほど不利です。

条件 荒れた日の効き方
短基線(数km以内)の単独基準局 比較的粘る。同じ空を見ているため差が残りにくい
長基線(10km超) Fixしにくくなる。普段から余裕のない距離ほど先に崩れる
ネットワークRTK(VRS等) 周辺局のモデル化に依存。乱れが局所的だとモデルが追いつかないことがある
CLAS(みちびきの補強) 補強情報の生成側も電離圏の推定を含むため、荒れた日は品質が落ちうる

「いつもの現場でいつもの手順なのに、今日だけ決まらない」ときは、腕でも機械でもなく空の状態を疑ってよい、ということです。

みちびきとCLASによる補強


当日の立て直し方

荒れた日にできることは「無理をしない」に集約されますが、具体化すると次のようになります。

場面 やること
作業前 宇宙天気の警報が出ていないか確認する。出ていれば重要な観測を後ろへ倒す判断材料にする
初期化が長い 粘らずいったん切って取り直す。上空が開けた場所へ数m移動する
Fixが外れる 基準局・補強方式を切り替えてみる(単独基準局 ⇄ ネットワークRTK ⇄ CLAS)
どうしても必要 時間を空けて複数回観測し、値の一致を見る。1回のFixで確定しない
判断がつかない 既知点(基準点・前回観測点)を1点測る。これがいちばん早くて確実
荒れが強い トータルステーション併用に切り替える、または日を改める

電離圏は日中(おおむね昼から夕方)に電子が多く、夜間に落ち着くという日変化があります。荒れた日でも、朝夕は比較的ましなことが多い。重要な点を朝一に回すのは、日程調整として現実的な手です。

夏のRTK-GNSS測位品質を守る現場対策

作業後にできることも1つあります。その日の観測に「初期化に時間がかかった」「Fixが外れた」といった所見を残しておくことです。後日に成果を見直すとき、天候メモと同じくらい役に立ちます。


情報はどこで見るか

日本では NICT(情報通信研究機構)の宇宙天気予報が一次情報になります(https://swc.nict.go.jp/)。フレアの規模(C・M・Xのクラス)、磁気嵐の状況、電離圏の擾乱がまとめて公開されており、大きなイベントのときは注意喚起も出ます。

直近の大きな事例としては、2026年1月19日に発生したXクラスの大規模フレアがあり、NICT から宇宙システム運用への注意喚起が出されました。太陽活動は約11年周期で変動し、第25太陽活動周期の極大期は2024〜2026年ごろと見込まれています(いずれも2026年8月時点の公表情報)。つまり今は、こうしたイベントが起きやすい時期にあたります。

注意:フレアの規模が大きいことと、日本の測位が実際に乱れることはイコールではありません。CMEが地球方向に向いているか、到達時の磁場の向きはどうか、といった条件で結果は変わります。警報が出た日に必ず現場が荒れるわけでも、警報が無い日に絶対荒れないわけでもありません。最終的な判断は現場の実測(既知点チェック)で行うのが確実です。


まとめ

  • 太陽フレアは電波の通り道(電離圏)を荒らすことで測位に効く。効くのはフレア当日より1〜3日後のCME到達であることが多い
  • RTK は基準局との差分で電離圏遅延を消しているが、荒れると「同じ空」の前提が崩れてFixが決まらない・外れる・跳ぶ
  • 基線が長いほど不利。ミスフィックス(Fix表示のまま値だけ違う)が最も危険
  • 対処は、取り直す・方式を変える・時間を空けて複数回・既知点で確認する・必要なら日を改める
  • 宇宙天気は NICT で確認できるが、警報と現場の荒れは1対1ではない。最後は実測で確かめる

出典

  • NICT 宇宙天気予報 https://swc.nict.go.jp/
  • NICT 宇宙天気予報「大規模な太陽フレアが発生」(2026年1月20日) https://swc.nict.go.jp/report/topics/202601201800.html
  • 国土地理院「電子基準点とGEONET」 https://www.gsi.go.jp/kanshi/index.html
  • 内閣府「みちびき(準天頂衛星システム)」 https://qzss.go.jp/

到達時間・周期の年次は公表資料にもとづく概略値です。太陽活動極大期の時期は評価機関・指標によって幅があります。数値・事例は2026年8月時点で公表されている情報に基づきます。


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開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。


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