
昨日FIXした場所で、今日はなぜFIXしない? — GPS衛星の配置が毎日3分56秒ずつ早く戻る仕組み
GPS衛星が空の同じ位置に戻ってくるのは、24時間後ではなく約23時間56分04秒後です。毎日およそ3分56秒ずつ早まります。昨日13時00分に荒れた現場は、今日はおおよそ12時56分に荒れます。時計を頼りに「昨日と同じ時刻」で再測すると、いちばん条件の悪い並びをもう一度引き当てることになります。
1日で戻るのは「太陽」であって「衛星」ではない
地球が自転して1周し、同じ恒星が同じ方向に戻るまでの時間を恒星日といいます。これは 23時間56分04.09秒。ふだん使う24時間(太陽日)は、地球が公転で少し進んだぶん余計に回ってから太陽が正面に戻るまでの長さなので、恒星日より 235.9秒(=3分55.9秒) 長くなっています。
衛星の軌道は太陽ではなく空間に対して決まっているので、衛星の巡り合わせは恒星日で回ります。
| 長さ | 24時間との差 | |
|---|---|---|
| 恒星日 | 23時間56分04.09秒 | −3分55.9秒 |
| 太陽日(ふつうの1日) | 24時間00分00秒 | — |
差はわずかですが、累積します。1日で約4分、1週間で約27分、1か月で約2時間。そして 366日でちょうど1周して元の時刻に戻ります(86400 ÷ 235.9 ≒ 366.2日)。「去年の今ごろと同じ時間帯」は、実は本当に同じ並びに近いということです。
GPS衛星は恒星日ちょうどで戻ってくる
ESA の Navipedia によれば、GPS衛星の軌道周期は 11時間58分。これは恒星日のちょうど半分で、1日に2周します。その結果、同じGPS衛星が、地上の同じ場所から見て同じ空の位置に来るのは1恒星日ごとになります。
| システム | 軌道周期 | 同じ衛星が同じ位置に戻るまで |
|---|---|---|
| GPS | 11時間58分 | 1恒星日(=毎日約4分早まる) |
| GLONASS | 11時間15分 | 8恒星日 |
| Galileo | 14時間22分 | 1日単位では戻らない |
| QZSS(準天頂軌道) | 約24時間(北半球に約13時間・南半球に約11時間) | 1恒星日(毎日ほぼ同じ8の字) |
GLONASS は8恒星日かけてようやく同じ衛星が戻りますが、1つの軌道面に8機が並んでいるため、空の「位置」そのものは毎日別の衛星で埋まります。仰角・方位の並びとしては毎日似た形になる、という理解でちょうどよい挙動です。
QZSS(みちびき)の準天頂軌道は周期がほぼ1恒星日なので、毎日ほぼ同じ時刻・同じ形で日本上空に8の字を描きます。CLAS を使っていて「この時間帯はいつも安定する/いつも渋い」と感じるなら、それは気のせいではありません。

RTK は基準局と移動局が同じ衛星を同時に見て差をとる方式です。見えている衛星の並びが毎日再現するということは、基線の誤差の出方も毎日再現するということでもあります。
現場での使い方①:再測は「同じ時刻」を避ける
いちばん実用的な使い方がこれです。
- 今日うまくいかなかった点を明日測り直すなら、同じ時刻は避ける。 衛星配置はほぼ同じに戻ります
- 2時間以上ずらす。 30分では配置が大きくは変わりません。半日ずらせれば確実です
- 同じ日に2回測るなら4時間以上あける。 「時間をあけて2回測って較差を見る」という運用は、間隔が短いと同じ癖を2回測っているだけになります
- 逆に、あえて同じ時刻に測るという使い方もあります(次節)
現場での使い方②:マルチパスかどうかを切り分ける
ある点で毎回同じ方向に数cmずれる。原因がマルチパスなのか、基準局の座標なのか、電離層なのか——切り分けたいときに、この周期が効きます。
- 問題の出た時刻を記録する(例:14時10分)
- 翌日、その約4分前(14時06分ごろ)に同じ点・同じアンテナ高で測る
- 同じ癖が同じように出れば、原因は「その場所から見える空の形」側——つまりマルチパスや遮蔽です。反射源(壁・水面・車両・金網)を疑います
- 出方が違えば、原因は空の形ではない——基準局座標、電離層の擾乱、アンテナ設置、受信機設定などを順に疑います
反射は「どこから電波が来るか」で決まるので、衛星配置が再現すれば反射経路も再現します。これは検証として素直です。遮蔽の影響そのものについては マルチパスでFIXが安定しないとき に、仰角マスクの決め方は 仰角マスク角はどこまで下げてよい? にまとめてあります。
現場での使い方③:観測計画を「1日ずらす」ときの注意
観測計画(ミッションプランニング)を前日に立てておいて、当日に持ち越すことがあります。このとき、DOP が良い時間帯の表を1日そのまま使うと、約4分ぶん古い表になります。
4分のずれが問題になるのは、DOP が短時間で急に悪化する時間帯だけです。谷筋や市街地のように使える空が狭い現場では、その「窓」が10分程度しかないこともあります。窓が狭い現場ほど、前日の計画表をそのまま使わないのが安全です。
マルチGNSSでは、きれいには再現しない
ここまでは「GPSだけ」で見たときの話です。実際の受信機は GPS・GLONASS・Galileo・BeiDou・QZSS を混ぜて使います。システムごとに回帰周期が違うので、全体としての並びは毎日ぴったりは再現しません。
- GPS と QZSS の部分は毎日ほぼ再現する
- GLONASS は「同じ位置を別の衛星が埋める」形で似た並びになる
- Galileo・BeiDou の MEO はもっと長い周期なので、日単位では戻らない
つまり再現するのは「よく似た配置」であって、「同一の配置」ではありません。切り分けの手がかりとしては十分ですが、「翌日の同時刻なら必ず同じ結果になる」と期待するのは行き過ぎです。使える衛星数そのものの話は 衛星が多いと精度は上がる? にまとめてあります。
押さえておくこと
- GPS衛星の軌道周期は11時間58分=恒星日の半分。同じ空の位置に戻るのは1恒星日(23時間56分04秒)ごと
- 太陽時では毎日3分56秒ずつ早まる。1週間で約27分、1か月で約2時間、366日で1周
- 再測は同じ時刻を避ける。 2時間以上、できれば半日ずらす
- あえて翌日の4分前に測れば、マルチパスかどうかを切り分けられる
- QZSS はほぼ1恒星日周期なので、CLAS の調子の良し悪しが時間帯に紐づいて感じられるのは自然
- マルチGNSSでは完全な再現ではなく「よく似た配置」。手がかりであって保証ではない
衛星の並びは、現場が変えられない条件のひとつです。ただしいつ変わるかは分かっている条件でもあります。予定を4分ずらすだけで結果が変わることは、思っているより多くあります。
本記事の軌道周期は2026年9月時点の各システムの公称値です。衛星の配置・機数は打ち上げや軌道変更で変わります。
出典
- ESA Navipedia「GLONASS Space Segment」(GPS・GLONASS・Galileo の軌道周期一覧) https://gssc.esa.int/navipedia/index.php/GLONASS_Space_Segment
- 内閣府「みちびき(準天頂衛星システム)」(準天頂軌道の滞在時間) https://qzss.go.jp/
- 国土地理院「作業規程の準則について」 https://www.gsi.go.jp/gijyutukanri/gijyutukanri41018.html
- 国土地理院「電子基準点データ提供サービス」 https://terras.gsi.go.jp/
次に確認する
- マルチパスでFIXが安定しないとき(GeoDiveExa) — 本記事の切り分けで「空の形が原因」と分かったあと、反射源をどう探すかが分かります
- 仰角マスク角はどこまで下げてよい? — 低い衛星を切るか残すかの判断基準が分かります
- 受信機の電源を入れてから測れるまで(コールドスタート) — 受信機が「衛星がどこにいるか」をどう手に入れているかが分かります
- 1日はなぜ23時間56分なのか(GeoPrism JP) — 本記事が前提にしている恒星日と太陽日の差を、図で確かめられます
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第10章「GPSとみちびきのしくみ」(Kindle Unlimited対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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