
Fix解なのに座標が間違っていることはある? — 誤Fixが起きる条件と、現場で気づくための3つの確かめ方
あります。 Fix解とは「搬送波の波の本数(整数値バイアス)が決まった」状態のことで、「正しく決まった」ことまでは保証しません。誤った本数に収束した状態を誤Fixと呼び、このとき座標は数cmから十数cm飛びます。やっかいなのは、受信機の画面は「Fix」のままで、表示される標準偏差もむしろ小さく出ることです。画面を見ているだけでは気づけません。
Fix解が意味しているのは「決まった」だけ
RTKがcm級になるのは、電波の到達時間ではなく搬送波の位相を使うからです。位相は波1本の中の位置(端数)を非常に細かく読めますが、「いま何本目か」という整数部分は測れません。この整数部分を、複数の衛星と時間の組み合わせから推定して1つに決める作業が初期化で、決まった状態がFix解です。

波1本の長さは搬送波の周波数で決まります。
| 信号 | 周波数 | 波長(=1本) |
|---|---|---|
| L1 | 1575.42 MHz | 約 19.0 cm |
| L2 | 1227.60 MHz | 約 24.4 cm |
| L5 | 1176.45 MHz | 約 25.5 cm |
だから「1本まちがえる」と、その衛星方向の距離が約19cm(L1の場合)ずれた前提で解が組み立てられます。ただし座標が必ず19cmずれるわけではありません。最終的な座標は複数衛星の幾何で決まるため、ずれ方は数cmから十数cm、条件によってはそれ以上と幅があります。「19cmきっかりでなければ誤Fixではない」とは判断できない、ということです。
仕組みそのものはFix解の「整数」って何に詳しく書いています。本記事はその続きで、決まった整数が間違っていた場合の話です。
誤Fixが起きやすい条件
誤Fixは「候補が絞りきれていないのに、絞れたと判定してしまった」ときに起きます。候補が絞りにくくなる要因は、そのまま誤Fixの条件になります。
| 条件 | 何が起きているか |
|---|---|
| 初期化してすぐFixした | 候補を絞る材料(時間・衛星の動き)が足りない |
| 衛星数が少ない/配置が偏る | 方程式の本数が足りず、複数の整数の組み合わせが同程度に成立してしまう |
| 建物・法面・車両のそばで測っている | 反射波が混ざり、位相そのものが正しくない |
| サイクルスリップ直後 | 波の本数が飛んだ状態から再決定するため、誤った本数に落ち着きやすい |
| 電離層・対流圏の残差が大きい | 距離の見かけがずれ、その分を整数側で吸収してしまう |
| 基線長が長い | 上の残差が消えにくく、候補が近づく |
樹冠下や建物際で「Fixが安定しない」場合の見分け方はRTKのFixが建物際で暴れるのはなぜ?に、位相が飛ぶ現象そのものはサイクルスリップとはにまとめてあります。
なぜ画面の数値では気づけないのか
受信機が表示する標準偏差は、決めた整数が正しいという前提のもとでの内部整合性を表しています。整数を1本まちがえても、その前提で計算し直せば残差は小さくまとまります。つまり誤Fixのときこそ「きれいな数字」が出ることがあります。
多くの受信機は初期化の確からしさを示す指標(最良解と次善解の残差の比、いわゆる比検定の値)を持っています。これが小さいときは候補が競っている状態です。ただししきい値と表示の有無は機種と設定で異なるため、自分の機材で何がどこに出るかは取扱説明書で確認してください。一般的な目安の数字を他機種から借りてくると、判断を誤ります。
現場で気づくための3つの確かめ方
画面を信用できないなら、測り方で確かめるしかありません。いずれも数分で済みます。
1. 既知点で検測する(作業の前後に1点)
座標が分かっている点に立てて、出てきた値と比較します。ばらつきではなく偏りが見えるのが利点で、誤Fixなら一発で分かります。手順はRTK-GNSSは本当に合っているかにまとめています。
2. 意図的に初期化をやり直して、もう一度測る
アンテナを伏せる・電源を切るなどでFixを一度外し、再初期化してから同じ点を測ります。2回の値が数mm以内で一致すれば、2回連続で同じ誤りに落ちた可能性は低いと判断できます。数cm以上違えば、少なくとも片方は誤Fixです。これは公共測量で「セット間で再初期化して2セット観測する」よう定められている理由そのものです。
3. 時間を空けて測り直す(20〜30分あける)
衛星の配置が変われば、方程式の形も変わります。配置が悪くて誤Fixした点は、配置が変わると同じ誤りを再現しません。1と2で判断がつかないとき、これが最後の切り分けになります。
もう一手:基準局を別のものに替えて(ネットワーク型なら別の方式に替えて)測り直すと、基線長や補正経路に起因する誤Fixを切り分けられます。
「ズレの形」から当たりをつける
再測した2つの値を比べたとき、差の出方でおおよその原因が絞れます。
| 差の出方 | 疑うもの |
|---|---|
| 水平・垂直ともに数cm〜十数cm、再現性がある(毎回同じ量だけ違う) | 誤Fix、または基準局の座標そのものの誤り |
| 垂直だけ10cm前後 | 誤Fix、対流圏の残差、アンテナ高の入力 |
| 少しずつ流れて落ち着かない | まだ収束していない、またはマルチパス |
| 一方が1〜2cm程度ばらつくだけ | 正常な範囲(カタログ値の読み方は別記事参照) |
基準局側の座標を疑う場合は基準局の座標を間違えたら、測った点はどれだけずれる?を先に確認してください。移動局をいくら測り直しても、基準局が違えば全点が同じ量だけ動きます。
手順に落とすと
- 作業前に既知点で1点検測する(この1点が、その日の全点の保険になる)
- 重要な点は再初期化して2回測る。差は数mm以内を目安にする
- 差が数cm出た点は、その場で3回目を測るか、時間を空けて測り直す
- 「すぐFixした」「衛星が少ない」「反射物のそば」のいずれかに当たる点は、Fixしていても再測の対象にする
- 作業後にもう一度既知点で検測して、その日の値が使えるかを判定する
誤Fixは機材の故障ではなく、条件が悪いときに起きうる正常な現象です。だからこそ、検測と再初期化という手順の側で受け止めます。
出典
- 国土地理院「マルチGNSS測量マニュアル(案)ー近代化GPS、Galileo等の活用ー 解説」 https://psgsv2.gsi.go.jp/koukyou/public/multignss/multi_gnss_kaisetsu.pdf
- 国土地理院「作業規程の準則」 https://www.gsi.go.jp/gijyutukanri/gijyutukanri61018.html
- 国土交通省告示「作業規程の準則」(本文PDF) https://psgsv2.gsi.go.jp/koukyou/jyunsoku/pdf/h28/H28_junsoku_honbun.pdf
- GNSS相対測位における整数値バイアスの決定 | J-STAGE https://www.jstage.jst.go.jp/article/sci/SCI08/0/SCI08_0_362/_article/-char/ja/
※波長は真空中の光速 299,792,458 m/s を各周波数で割った値です。
次に確認する
- Fix解の「整数」って何 — 本記事の前提。波の本数を決める作業がなぜ必要で、なぜ外れるのかが分かります
- RTK-GNSSは本当に合っているか — 誤Fixを一発で見つける既知点検測の、具体的な手順と判定値です
- RTKの精度「10mm+1ppm」はどういう意味? — 「これは正常なばらつきか、誤Fixか」を分ける境目の目安になります
- GNSSはなぜ4機の衛星で位置が決まるのか(GeoPrism JP) — 方程式の本数と未知数の関係を図で確かめられます。誤Fixが「本数不足」で起きる理由の土台です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第11章「cm級測位の現場」(Kindle Unlimited対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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