
伊豆半島はどこから来た? — 2000万年で約1,100km北上した地塊と、いま電子基準点が測っている押し込み
南の海からです。 約2000万年前の伊豆は、いまの硫黄島あたりの緯度にあった海底火山群でした。フィリピン海プレートに乗って北へ運ばれ、約100万年前に本州へ衝突、約60万年前にいまの半島の形になります。しかもこれは終わった話ではありません。押し込みは現在も続いていて、電子基準点がその動きを毎日測っています。
緯度で測ると、どれくらい動いたのか
伊豆半島ジオパークの公式サイトは、伊豆の出発点をこう書いています。
約2000万年前、伊豆は本州から数百km南、現在の硫黄島付近の緯度にありました。
測量の道具で読み直してみます。硫黄島は北緯24度47分、伊豆半島の中央部(天城山のあたり)は北緯34度52分。緯度差はおよそ10度05分=10.08度です。
緯度1度 ≒ 111km
10.08度 × 111km ≒ 1,119km
1,119km ÷ 2000万年 ≒ 年5.6cm
年5.6cm。 この数字を見て「どこかで見た桁だ」と思ったなら、それが今回いちばん面白いところです。国土地理院は、日本列島の地殻変動について「地震が起きていないときでも、1年間に数センチメートル程度地面は絶えず動いています」と書いています。いま電子基準点が毎日測っている年数cmを、そのまま2000万年ぶん積み上げると1,000km級になる——伊豆の旅は、特別な速さで起きたのではなく、ふつうのプレート運動を気長に続けた結果です。
ひとつ注意があります。公式サイトが「本州から数百km南」としているのに、緯度差からは1,100kmが出てきます。矛盾ではありません。 2000万年前の本州はまだ日本海が開き切る前で、いまの位置にいなかったからです。1,119kmは「当時の伊豆の緯度から、いまの伊豆の緯度まで」の見積もりであって、当時の本州との距離ではありません。
衝突してからも、止まっていない
伊豆の年表を並べると、こうなります。
| 時期 | 何が起きたか |
|---|---|
| 約2000万年前 | 硫黄島付近の緯度で、深海底の火山群として活動 |
| 〜約1400万年前 | 日本海の拡大が進み、西南日本は時計回り・東北日本は反時計回りに回転して現在位置へ |
| 約100万年前 | フィリピン海プレートに運ばれた伊豆が本州へ衝突 |
| 約60万年前 | 陸地どうしが海を埋め、いまの半島の形になる |
| 〜約20万年前 | 天城山・達磨山など、伊豆の骨格をつくる大型火山の活動 |
| 現在 | 伊豆東部火山群が活火山。プレートは伊豆を本州へ押し込み続けている |
衝突は「着いたら終わり」ではありません。衝突してからの100万年も、同じ速さで動き続けたとすれば56km分の押し込みが生じている計算になります。もちろん伊豆が56km本州にめり込んでいるわけではなく、その分は隆起・断層・ひずみとして周囲に配られました。丹沢や関東山地が高いのも、伊豆の北側に地震が多いのも、配られた先の話です。
「毎日測っている」のは誰か

国土地理院は全国約1,300か所に電子基準点を置き、GNSS連続観測で地殻変動を追っています。公表されている数字を並べると、地面の動きは「地質の話」ではなく「測量の実務の話」になります。
- 地震のない平常時でも、1年あたり数センチメートルの地殻変動がある
- プレート運動による変動は、1997年以降で最大2メートル程度まで蓄積している
- 平均のひずみ速度は約0.2ppm/year。10km先で年2mm程度ずれる、という大きさ
最後の0.2ppm/yearが、現場でいちばん効きます。10km離れた2つの基準点の相対位置が、毎年2mmずつ狂っていくという意味だからです。10年で2cm。三角点や電子基準点を使って新点を決める測量では、この蓄積が「網のゆがみ」として現れます。
現場では「元期」と「今期」として出てくる
伊豆の話が、RTKを使う日の作業にどう降りてくるか。
地図や基準点の成果は、過去のある時点の座標で書かれています。これを元期と呼び、全国は1997年1月1日、東北地方太平洋沖地震の影響を大きく受けた東北・関東を中心とする地域は2011年5月24日が元期です。いっぽうGNSSで測って出てくるのはいま現在の座標=今期。この2つは、間に挟まった地殻変動の分だけ食い違います。
食い違いを埋める仕組みがセミ・ダイナミック補正(基準点網のゆがみを消す側)と定常時地殻変動補正(地図とGNSS測位のズレを消す側)です。補正パラメータは電子基準点の観測値をクリギング法で約5km間隔の格子に補間して作られており、任意の点の補正量はその格子4点からバイリニア補間で求めます。
つまり現場でパラメータのファイル名と年度を確かめているとき、確かめているのは「伊豆がどれだけ北へ進んだか」の最新分です。地質年代と今日の作業が、同じ1本の線でつながっています。
まとめ
- 伊豆は約2000万年前、いまの硫黄島あたりの緯度にあった海底火山群。フィリピン海プレートに乗って北上した
- 緯度差10.08度から試算すると約1,119km/年5.6cm。いま測れる「年数cm」を2000万年積んだ大きさにあたる
- 約100万年前に本州へ衝突し、約60万年前にいまの半島の形になった
- 押し込みは現在も続く。国土地理院によれば平常時でも年数cm、1997年以降で最大2m程度が蓄積し、平均ひずみ速度は約0.2ppm/year
- 現場ではこれが元期と今期の食い違いとして現れ、セミ・ダイナミック補正・定常時地殻変動補正で埋める
本記事で計算した値
| 値 | 根拠 |
|---|---|
| 緯度差 10.08度 | 硫黄島 北緯24度47分/伊豆半島中央部 北緯34度52分 |
| 約1,119km | 10.08度 × 111km(緯度1度あたりの概算) |
| 年5.6cm | 1,119km ÷ 2000万年 |
| 56km(100万年ぶん) | 0.056m/年 × 100万年 |
年5.6cmは緯度差からの試算値で、観測値ではありません。当時の伊豆と本州の位置関係、プレートの運動方向(真北ではない)を含んでいないため、桁の見当をつけるための数字として扱ってください。地殻変動の実測値は国土地理院の公表値(2026年9月時点で参照できるもの)によります。
出典
- 伊豆半島ジオパーク「伊豆半島の成り立ち」 https://izugeopark.org/intro/intro2/
- 国土地理院「プレート運動による地殻変動の補正(定常) 導入背景と補正概要」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/chikakuhendo_background.html
- 国土地理院「日本列島の地殻変動」 https://www.gsi.go.jp/kanshi/
次に確認する
- 日本列島はいつ大陸から離れた? — 伊豆が北上していた同じ時期に、本州のほうが観音扉のように開いていた話です
- フォッサマグナはなぜできた? — 伊豆の衝突が押し込んだ先の地帯を、いまのひずみ分布から読めます
- ハワイは日本に近づいている? — 「年数cm」を実際に測った測量技術(VLBI)の中身が分かります
- 電子基準点網(GEONET)の強靱化 — 毎日その動きを記録している設備そのものの話です
- プレート運動と地殻変動を図で確かめる(GeoPrism JP) — 日本周辺のプレートがどちらへ動いているかを地図上で確認できます
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第7章「地震と動く日本列島」(Kindle Unlimited対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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