
地震の大きさはGNSSで測れる? — 針が振り切れない「地震計」REGARDと、熊本地震で5分後に出た断層モデル
測れます。しかも巨大地震ほど、地震計より頼りになります。 国土地理院は2016年4月から、全国の電子基準点の動きを1秒ごとに解析して地震の規模を推定する REGARD を運用しています。中身は私たちが現場で使っているのと同じ RTK(リアルタイムキネマティック)の基線解析で、それを全国約1,200点ぶん、止めずに回し続けているシステムです。
地震計は、大きすぎる地震で頭打ちになる
地震の規模は、ふつう各地の地震計が示す振幅から推定します。ところがM8を超えるような巨大地震では、地震計から推定される規模が頭打ち(飽和)して、実際より小さく出ることが以前から指摘されていました。
2011年の東北地方太平洋沖地震では、緊急地震速報の数値をもとにM7.9という推定値が出され、それに基づいて津波警報が発表されました。結果として津波の規模が過小評価されました。
この反省から「巨大地震でも飽和しない地震計」として開発されたのがREGARDです。
振幅ではなく、動いた距離で測る
発想はシンプルです。地震計は「揺れの大きさ」を測りますが、GNSSは「どれだけ動いたか」を測ります。動いた距離には上限がありません。
東北地方太平洋沖地震でもっとも大きく動いた電子基準点は、宮城県石巻市の「牡鹿」(点番号960550)でした。その変位は東南方向に5.3m、上下方向にマイナス1.2m。地震計なら針が振り切れてしまう大きさですが、GNSSは平然と測り切ります。
そして地震の規模は、地震計の記録だけでなく地殻変動量からも推定できます。むしろ巨大地震では、そちらのほうが信頼度の高い推定が期待できる——これがREGARDの土台です。

REGARDは3つのサブシステムでできている
REGARDは REal-time GEONET Analysis system for Rapid Deformation monitoring の略で、全国に約1,300点ある電子基準点のうち約1,200点を対象にしています。構成は3段です。
| # | サブシステム | 仕事 |
|---|---|---|
| 1 | リアルタイム計測 | 全国の電子基準点の変位を1秒ごとに把握する |
| 2 | イベント検知 | その変位が地震によるものかを判定する(緊急地震速報などと併せて判断し、地すべりや機器エラーを除く) |
| 3 | 断層モデル推定 | 変位から断層の位置・大きさを推定し、地震の規模を出す |
3段目の断層モデル推定は、東北大学と共同開発したインヴァージョン解析です。「この変位を生む断層はどんな形か」を仮定し、逆にその断層が動いたら地上にどんな変位が出るかを計算して、実データと一致度の高いものを採用する——これを何パターンも繰り返します。巨大地震を起こす断層の位置や向きはある程度決まっているので、そこに拘束をかけて短時間で結果を出しています。
中身はRTK——現場で使っているものと同じ
ここが現場の人間にはいちばん面白いところです。1段目のリアルタイム計測は、RTKによる精密測位で動いています。
既知点は3点だけ。北海道の「稚内」(970778)、石川県の「小松」(950255)、佐賀県の「北波多」(960770)です。海溝型の巨大地震でも変位が小さいと思われる日本海側から、日本列島を均等にカバーできるように選ばれています。この3点と、残り約1,200点との間で、1秒ごとに基線解析をかけ続けています。
基準局は動かない場所に置く。日本海側なら太平洋側の海溝型地震の影響を受けにくい。——現場でやっていることと、発想がまったく同じです。ただし規模が桁違いで、解析結果は運用開始以来数百テラバイトのオーダーで蓄積されています。
解析のコアには GSILIB(東京海洋大学の高須知二氏が作成したRTKLIBに、国土地理院が補正項目を取り込めるよう改良したもの)が使われています。採用の理由として挙げられているのは、商用を含む他方式と比べて計算スピードが圧倒的に速かったこと、そしてオープンソースで計算処理にブラックボックスが無いことでした。
なぜ「日々の座標値」ではダメなのか
電子基準点の「日々の座標値」は、観測データと精密暦(衛星の軌道と時計の誤差の情報)を組み合わせて求めます。IGSが公開する精密暦には3種類あります。
| 種類 | 公開まで |
|---|---|
| 最終暦(Final orbits) | 2週間 |
| 速報暦(Rapid orbits) | 2〜3日 |
| 超速報暦(Quick orbits) | 数時間 |
もっとも速い超速報暦でも入手に2〜3時間かかるため、リアルタイム解析には間に合いません。だからREGARDは、精密暦を待つのではなく、RTKで「相対的にどれだけ動いたか」を即座に出す道を選んでいます。精度と即時性のトレードオフを、目的に合わせて切り替えているわけです。
熊本地震——運用開始直後の実戦
REGARDの運用開始は2016年4月。巨大地震が対象なので「成果が出せるのはしばらく先だろう」と思われていた矢先に、熊本地震が起きました。
2016年4月16日のM7.3の地震では、熊本県阿蘇郡南阿蘇村の電子基準点「長陽」が南西方向に約1m移動するなど、非常に大きな地殻変動が捉えられました。そして地震後5分程度で推定した断層モデルとマグニチュードが、気象庁による推定と概ね一致していました。
REGARDの解析結果は、内閣府の「津波浸水被害推定システム」などにも提供される体制になっています。
現場の感覚で読み直すと
この話には、日々RTKを触っている側から見て腑に落ちる点がいくつもあります。
- 基準局の選び方が肝:REGARDが既知点を日本海側の3点に置いたのは、「動かないはずの場所を基準にする」という、私たちが基準局を選ぶときの判断そのものです。
- 1秒ごとの解析は珍しくない:現場のRTKも1Hzで解を出しています。違いは点数と、それを止めずに回し続ける体制のほうです。
- RTKLIBが国の防災インフラの中核にいる:オープンソースの解析エンジンが、津波警報の参考情報の入口にいる、という事実は率直に驚きです。
- 「動いた」という情報は測位誤差ではない:現場で成果と合わない座標が出たとき、それが機器の問題なのか地面の問題なのかを疑う目は、REGARDの2段目(イベント検知)が機械でやっていることと同じです。
まとめ
- 地震の規模は地殻変動量からも推定でき、巨大地震では地震計より飽和しにくい
- 国土地理院のREGARDは2016年4月運用開始、電子基準点約1,200点を対象に1秒ごとの変位を監視する
- 構成は「リアルタイム計測」「イベント検知」「断層モデル推定」の3サブシステム
- 計測部の実体は既知点3点(稚内・小松・北波多)を使ったRTKの基線解析、解析エンジンはRTKLIB由来のGSILIB
- 精密暦は最速の超速報暦でも2〜3時間かかるため、リアルタイムには使えない
- 熊本地震(2016年4月16日・M7.3)では地震後5分程度で断層モデルとMを推定し、気象庁の推定と概ね一致した
出典
- 電子基準点を巨大地震の地震計に使う、国土地理院の「REGARD」(みちびき公式サイト・2018年7月13日、国土地理院 川元智司氏・阿部聡氏へのインタビュー) https://qzss.go.jp/info/archive/regard_180713.html
- 電子基準点リアルタイム解析システム(REGARD)プロトタイプの開発(国土地理院・2016年3月3日) https://www.gsi.go.jp/common/000137236.pdf
- 電子基準点が捉えた平成28年(2016年)熊本地震に伴う地殻変動について(国土地理院) https://www.gsi.go.jp/chibankansi/chikakukansi_kumamoto20160414.html
- GEONET(GNSS連続観測システム)とは | 国土地理院 https://www.gsi.go.jp/denshi/denshi_38136.html
本記事の数値・体制は上記出典の記載(インタビュー記事は2018年7月時点)に基づきます。運用点数・既知点・システム構成はその後の高度化で変わっている可能性があります。最新の状況は国土地理院の公表資料をご確認ください。
次に確認する
- 電子基準点網(GEONET)の強靱化で何が変わったかを確認する — REGARDが乗っている土台そのものの話です
- 海底の地殻変動をGNSS-Aでどう測るかを確認する — 陸の電子基準点では見えない、海溝側の動きの測り方です
- RTKの整数値バイアス決定(Fix)のしくみを確認する — REGARDの1秒解析が何をやって座標を出しているかの中身です
- 地震の「10秒間」を1秒ごとに見た記録を確認する(GeoPrism JP) — 揺れと永久変位の違いを、実際の1秒データで図解しています
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第7章「地震と動く日本列島」(Kindle Unlimited対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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