GNSSの受信機間バイアス(ISB)とは? — 異機種を混ぜたときだけ出る10mmの点検と、電子基準点では使えない理由


GNSSの受信機間バイアス(ISB)とは? — 異機種を混ぜたときだけ出る10mmの点検と、電子基準点では使えない理由

GNSSの受信機間バイアス(ISB)とは? — 異機種を混ぜたときだけ出る10mmの点検と、電子基準点では使えない理由

受信機の回路で出ます。

現場に2台の受信機を持っていって、片方は去年買った機種、片方は借りてきた別メーカー。どちらもGPSもGalileoも拾っています。この2台のデータを一緒に解析して、問題は起きないのでしょうか。

答えは衛星系ごとに、受信機ごとに違う量のずれが乗るです。これがISB(Inter System Bias、受信機間バイアス)。ただし——この点検が要求される場面は、思っているよりずっと狭い。


ISBとは何か

国土地理院「マルチGNSS測量マニュアル(案)解説」(令和2年6月)の定義がそのまま答えです。

ISBとは、異なる衛星系の信号を処理する際に受信機の回路で発生するバイアスです。ISBの大きさは受信機種によって異なるため、異機種受信機を用いて同時に観測したデータの統合処理を行う場合はISBの値を推定し、補正する必要があります。

物理的な機序は、国土交通省の総合技術開発プロジェクト資料に書かれています。

衛星の種類や、周波数によって、信号が受信機内を通る際の遅延時間がわずかに異なり、観測データに、衛星系固有の系統誤差(バイアス)が発生

アンテナから入った信号が、受信機の中の回路を通って観測値になるまでにかかる時間。それが衛星系ごとにわずかに違う。しかもその「わずか」の量が機種ごとに違う——という話です。

重要なのは、同じ機種同士なら消えるという性質です。

同機種の受信機のみを用いる場合は位相差をとる時にISBも相殺されるため、ISB補正を行う必要はありません。

基線解析は2台の観測値の差をとる処理です。両方の受信機に同じ量のバイアスが乗っていれば、引き算した瞬間に消えます。問題になるのは、乗っている量が違うときだけ。


「統合処理」とは何か——通常のマルチGNSS観測とは違う

ここが混同されやすいところです。GPSとGalileoを両方受信して解析すれば、それだけでISBの点検が要る——わけではありません。

マニュアルが ISB 補正を求めているのは、統合処理を行う基線解析です。

第9条第3項五 統合処理を行う基線解析では、GNSS測量機(受信機本体)の機種が同じ場合を除き ISB の補正を行うものとする。

統合処理とは、異なる衛星系のあいだで位相差をとる解析のことです。衛星系ごとに独立して位相差をとる(同じ衛星系の中で差をとる)標準的な解析では、ISBは各系の内部で相殺されるため出てきません。

統合処理の見返りは、使用衛星数の要件が緩むことです。マニュアル第7条第2項第四号ロでは、GPS・準天頂衛星及びGalileo衛星の組合せでスタティック法4衛星以上/キネマティック法・RTK法5衛星以上。統合処理を行わない場合の表(同号イ)はそれぞれ5衛星以上・6衛星以上なので、1衛星ぶん軽くなる計算です。上空視界の悪い場所では効きます。


「同機種」の判定が思ったより厳しい

点検が免除されるのは「機種が同じ場合」ですが、その定義が3要素の全一致です。

GNSS測量機(受信機本体)の機種が同じ場合とは、機種名、内部ボードの型番、ファームウェアのバージョンがそれぞれ同じものをいう。

同じ型番の受信機を2台持っていても、片方だけファームウェアを上げていたら「異機種」です。 現場で気づきにくい落とし穴はここでしょう。マニュアルは、異機種であることを確認したときは計画機関に事前報告し、作業計画書等の使用機器欄にファームウェアバージョン等を明記する、とも定めています。


点検の中身——2回・10mm

第6条第2項・第3項が、点検の回数と許容範囲を決めています。

2 基線解析で統合処理を行う場合は、観測に使用するGNSS測量機(受信機本体)の機種が同じ場合を除き、観測着手前及び全観測完了後の計2回、GNSS測量機(受信機本体)間のISB(Inter System Bias)の推定を行い、ISBの差を点検するものとする。

3 ISBの差の許容範囲は次表を標準とし、許容範囲を超えたGNSS測量機(受信機本体)間の基線解析では統合処理を行わないものとする。/ 項目:ISBの差 / 許容範囲:10mm

観測の作り方も具体的に指定されています(解説5-2)。

項目 規定
単位 測量に利用する受信機の組合せ毎に行う
場所・時間 上空視界が良好な場所で、対象の衛星系の組が観測できる時間に1時間以上
接続 分配器を用いて同一アンテナからの信号を別々の受信機種で受信する。分配器がない場合は1m程度離れた2箇所にアンテナを整置する
ソフト 観測点の初期座標値を固定してISBを推定できるもの

GSILIB での手順も書かれていて、2点とも同じ座標値で固定した0m基線の解析を行い、出力される ISBTable ファイルの BIAS 値(ns単位)に光速度を乗じて距離に換算し、観測前後の差が10mm以内かを見ます。補正に採用するのは観測前の推定値のほうです。

「観測着手前と全観測完了後の2回」という設計が何をしているかというと、ISBが観測中に動いていないことの確認です。値そのものを2回平均するのではなく、差が許容範囲内であることを確かめて、前の値を使う。動いていたら統合処理をあきらめる、という判断の仕組みになっています。


衛星系の組合せによって、話がまったく違う

同じISBでも、組合せによって扱いが3通りに分かれます。

組合せ マニュアルの扱い 逐語
GPS ⇔ Galileo 補正して統合処理できる 「ISBは時間的な変動が小さいため、容易に補正することができます」
GPS ⇔ 準天頂衛星 補正不要 「GPS-準天頂衛星システム間のISBはほぼゼロであるため、…ISBの補正をする必要はありません」
GPS ⇔ GLONASS 規定なし 「受信機種によって変動が大きく補正が難しいため、本マニュアルでは規定していません」

GPS と準天頂衛星のISBがほぼゼロなのは、みちびきがGPS互換の信号を出しているためと考えるのが自然ですが、その因果関係はマニュアルには書かれていません。事実として「ほぼゼロ」とだけ押さえておきます。

GLONASSが外れている理由は、総プロ資料の実測所見が補ってくれます。

2)GLONASSでは、ISBが受信機再起動や温度で変化することを確認

観測着手前に測った値が、日が高くなったころには別の値になっている。これでは「観測前の推定値を採用する」という設計が成り立ちません。


伏線の回収——電子基準点を使う測量では、ほぼ出番がない

冒頭で「この点検が要求される場面は狭い」と書きました。理由はここです。

基準局からの補正情報と測位衛星からの信号を同時に受け取る現場のGNSS受信機の模式図

電子基準点を1つの端点とする基線における基線解析では、分配器を使用した観測ができないなど、ISBを推定することが困難であることから統合処理はほとんどの場合行うことができません。

ISB の推定には、2台の受信機に同じアンテナの信号を分配器で入れる(または1m離して並べる)作業が必要です。相手が電子基準点では、それができない。だから統合処理そのものが選べず、ISB点検も発生しません。

電子基準点を既知点に使う基準点測量、ネットワーク型RTK、CLASを使う現場——つまり日常のRTK作業でISBという語に出会わないのは、規程がそれを求めていないからです。ISB点検が現実に出てくるのは、自前の受信機2台以上で、しかも異機種を混ぜて、しかも統合処理で衛星数の緩和を取りにいく場面に限られます。


ISBとIFBは別物

よく並べて語られますが、指しているものが違います。

ISB(Inter System Bias) IFB(Inter Frequency Bias)
どこで生じる 異なる衛星系のあいだ GLONASSの衛星(周波数チャンネル)ごと
原因 衛星系ごとに受信機内の遅延が違う GLONASSがFDMA(衛星ごとに搬送波周波数が違う)方式であること
いつ問題になる 統合処理をするときだけ GLONASSを異機種間で使うとき

総プロ資料もこの2つを別項目として立てています。

GLONASSでは、受信機の回路で、受信機種ごとに異なる系統誤差が発生(GLONASS周波数間バイアス:IFB)→ 異機種受信機間でのGLONASSを含む解析に影響あり

IFBの大きさについては査読論文の実測があります。Wanninger (2012) は9社133台の受信機を調べて、隣接周波数間でメーカー間の差が最大0.2ns(5cm超)、L1またはL2の帯域全体では最大2.4ns(73cm)に達すると報告しています。同じ型のもの同士は似た値を示す一方、同型でもふるまいの違う個体や、時間とともに値が変わる個体が少数見つかった、とも書かれています。


根拠は準則ではなく、技術資料のほう

最後に位置づけの話です。作業規程の準則の本体には、ISBも統合処理も一言も書かれていません。

準則(令和5年3月31日改正版)を通して読むと、GNSSの定義はこうなっています。

「GNSS」とは…GPS、準天頂衛星システム、GLONASS、Galileo等の衛星測位システムがある。GNSS測量においては、GPS、準天頂衛星システム及びGLONASSを適用する。

準則本体はGalileoを適用対象にしていない。Galileoを使えるようにしているのはマニュアル側であり、マニュアル自身がその関係を明示しています。

準則第37条(観測の実施)第2項第二号ニに規定するGNSS衛星の組合せは、本マニュアルに規定するGNSS衛星の組合せの一部であり、本マニュアルは準則の規定を拡大するものである。

つまりISB点検は、準則第17条(機器等及び作業方法に関する特例)第3項に基づく国土地理院技術資料〔G1-No.18〕という、準則の外側にある文書の規定です。適用範囲は1〜4級基準点測量。公共測量として実施するときは、準則だけを見ていると条文が見つからない——という構造になっています。

出典

  • 国土地理院「マルチGNSS測量マニュアル(案)ー近代化GPS、Galileo等の活用ー 解説」令和2年6月(技術資料 G1-No.18) https://psgsv2.gsi.go.jp/koukyou/public/multignss/multi_gnss_kaisetsu.pdf
  • 国土交通省告示「作業規程の準則」(令和5年3月31日改正版・本文PDF) https://psgsv2.gsi.go.jp/koukyou/jyunsoku/pdf/R5/R5_junsoku.pdf
  • 国土交通省「高度な国土管理のための複数の衛星測位システム(マルチGNSS)による高精度測位技術の開発」終了時評価資料(平成28年2月4日) https://www.mlit.go.jp/tec/gijutu/kaihatu/pdf/h27/160204_04.pdf
  • 同・追跡調査資料(平成31年2月6日) https://www.mlit.go.jp/tec/gijutu/kaihatu/pdf/h30/190206_07tsuiseki.pdf
  • Wanninger, L. (2012) “Carrier-phase inter-frequency biases of GLONASS receivers”, Journal of Geodesy 86(2), 139–148. https://doi.org/10.1007/s00190-011-0502-y

本記事の記述は2026年9月時点で公表されている資料に基づきます。マニュアルの条文は「解説」PDF内に引用された条文枠から引いており、マニュアル本体PDFの版面は確認していません。準則の逐語は令和5年3月31日改正版に基づきます。準則もマニュアルも改正されることがあるため、公共測量として実施する際は必ず最新版の条文をご確認ください。10mmという許容範囲の統計的な導出過程は、公表資料からは確認できませんでした。


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