チバニアンとは — 千葉の地層が世界の基準になった理由と、方位磁針が南を指していた77万年前


チバニアンとは — 千葉の地層が世界の基準になった理由と、方位磁針が南を指していた77万年前

チバニアンとは — 千葉の地層が世界の基準になった理由と、方位磁針が南を指していた77万年前

チバニアンは、77.4万年前から12.9万年前までの地質年代の名前です。 2020年1月17日、国際地質科学連合(IUGS)が千葉県市原市田淵の養老川沿いに露出する地層「千葉セクション」を、前期更新世と中期更新世の境界を示す世界の基準点(GSSP)に認定しました。その境界の目印になったのが、最後に起きた地磁気の逆転です。つまり、この地層の下の時代には方位磁針のN極は南を向いていました。


「年代の名前」ではなく「基準点」が認定された

報道では「チバニアンが決まった」と言われますが、正確に認定されたのは地層の一点です。

地質年代の境界は、世界のどこか1か所の地層に「ここから上が新しい時代」という杭を打つことで定義されます。この杭が GSSP(Global Boundary Stratotype Section and Point:国際境界模式層断面とポイント) です。境界より上の時代に、その土地の名前が付きます。千葉セクションが認定されたので、そこから上の中期更新世が「チバニアン(千葉時代)」と名付けられました。

全部で116ある地質年代境界のうち、千葉セクションGSSPは74番目の登録であり、日本初のGSSPです。地質年代の名称に日本の地名が使われたのも初めてでした。

測量に関わる方なら、この構造は見覚えがあるはずです。日本の緯度経度は、東京都港区麻布台の日本経緯度原点という1点を起点に全国へ広がっています。標高は東京都千代田区の日本水準原点が起点です。「世界中で使う体系を、現地の1点で物理的に定義する」という発想は、地質年代も測地基準も同じです。


なぜ地磁気の逆転が「境界」に選ばれたのか

前期更新世と中期更新世の境界は、もともと気候変動の周期が変わった時期(約125万〜70万年前に、卓越周期が4万年から10万年へ移った「中期更新世遷移期」)を根拠にしています。

ただ、この変化はゆるやかで、「何年前」とピンポイントで線を引けません。そこで、この期間に起きた最後の地磁気逆転イベント=松山逆磁極期からブルン正磁極期への切り替わり(松山–ブルン境界)を、境界位置の目安に使うことになりました。

地磁気の逆転は世界各地で同時に起こるため、時代境界の目印として都合がいいのです。イタリアの地層でもオーストラリアの地層でも、逆転の記録は同じ時刻を指します。

松山逆磁極期=方位磁針が南を指していた時代

地球の磁場は、数十万年〜数百万年に一度、N極とS極が入れ替わります。松山逆磁極期(約258万年前〜77万年前)は、いまとは逆向きだった期間です。この時代に方位磁針を持ち込んだら、N極は南を指していたことになります。

「松山」は、この逆転現象を1920年代に世界で初めて指摘した地球物理学者・松山基範に由来します。地質年代の国際的な用語に日本人名が入っている、数少ない例です。


千葉セクションが選ばれた決め手

下部更新統―中部更新統境界のGSSPには、イタリア南部の2か所(ヴァレ・デ・マンケ、モンタルバーノ・イオニコ)も候補に挙がっていました。それでも千葉が選ばれたのには、地層としての条件がそろっていたからです。

条件 千葉セクションの状況
地磁気逆転の記録 深海で静かに堆積した泥岩が主体で、磁性鉱物の供給も多く、高解像度の古地磁気記録が残る
年代の絶対値 境界のすぐ下に白尾火山灰層(Byk-E)が挟まる。ジルコンのウラン–トリウム年代測定で77.3±0.7万年前
独立した年代の裏取り 有孔虫の酸素同位体比+天文年代補正法から77.4万年前が導かれ、放射年代と誤差範囲で一致
気候記録の代表性 太平洋に面し、黒潮と親潮の境界が南北に動く場所。地中海の候補地より汎世界的な気候変動を反映しやすい
陸上で見られること 上総層群は隆起速度が速く、比較的新しい深海堆積物が陸上に露出している世界的にも希有な場所

GSSPの境界は、この白尾火山灰層の下面で定義されています。地磁気の逆転そのものは目で見えませんが、火山灰層は肉眼で追えるので、現地で「ここが境界」と指させる目印になっています。

なお、審査は4段階(作業部会 → 第四紀層序小委員会 → 国際層序委員会 → IUGS)で、それぞれ60%以上の得票が必要でした。2017年6月の申請から最終決定まで2年半以上かかっています。


現場の測位と、どこでつながるのか

古い地層の話に見えますが、GNSS測位・測量の実務から見ても接点があります。

1. 磁北は「いまも動いている」

地磁気が逆転するという事実は、地球の磁場が固定された基準ではないことの極端な例です。逆転しない平時でも、磁北の位置は毎年動いています。日本国内の偏角(真北と磁北の差)は西へ4〜10度ほどあり、その値は地域と年によって変わります。

現場で方位を扱うとき、コンパスの北と、図面の座標北と、地球の真北は一致しません。地磁気の長期変動を扱うモデル(IGRF)と国土地理院の磁気図が定期的に更新されるのは、この「動く基準」に追従するためです。

2. 「基準は不変ではない」という構造

地質年代の基準点が2020年に新しく打たれたように、測地の基準も更新されます。日本の測地系は旧日本測地系(TOKYO)から日本測地系2000(JGD2000)、日本測地系2011(JGD2011)、そして測地成果2024(JGD2024)へと移ってきました。標高の成果も2025年4月に改定されています。

地層は「過去の磁場の向き」を記録として残します。座標成果は「その時点の地面の位置」を記録として残します。どちらも、あとから読むときにはいつの基準かを確かめないと意味が取れません。GNSS測量で元期と今期を区別するのと、地層から松山期とブルン期を読み分けるのは、同じ作法です。

3. 房総半島は、いまも動いている場所

千葉セクションを含む上総層群が陸上で見られるのは、この地域の隆起速度が速いからです。房総半島は相模トラフ沿いのプレート境界に近く、電子基準点のデータでも継続的な変動が観測される領域にあります。77万年前の地層が地表で読めるという事実自体が、この地域の地殻変動の速さを示しています。


まとめ

  • チバニアンは 77.4万年前〜12.9万年前の地質年代。2020年1月17日にIUGSがGSSPを認定した
  • 認定されたのは年代名ではなく、千葉県市原市田淵の千葉セクションという地層の一点。日本初のGSSPで、116境界中74番目
  • 境界の目印は最後の地磁気逆転(松山–ブルン境界)。それ以前は方位磁針のN極が南を指していた
  • 決め手は、深海泥岩による高解像度の古地磁気記録と、白尾火山灰層の77.3±0.7万年前という絶対年代、そして天文年代補正法による77.4万年前という独立した裏取り
  • 「世界で使う体系を現地の1点で定義する」構造は、日本経緯度原点・日本水準原点と同じ。基準は不変ではなく、更新されていく

出典

  • 日本初のGSSP:千葉セクションとチバニアン(板木拓也, 2020)— 産業技術総合研究所 地質調査総合センター『GSJ地質ニュース』Vol.9 No.7: https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol9.no7_p.185-191.pdf
  • チバニアンGSSPの特徴と、その学術上の意義(岡田誠)— J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/27/11/27_11_73/_article/-char/ja/
  • 「チバニアン」の提案申請書が論文誌のウェブサイトで公開されました — 国立極地研究所: https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20210202.html
  • 地球史にチバニアンが誕生! — 千葉県立中央博物館: https://www.chiba-muse.or.jp/NATURAL/special/chibanian/index_chibanian.htm
  • 地磁気逆転とチバニアン — 山口大学理学部: https://www.yamaguchi-u.ac.jp/sci/news/blog/news/5089/

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