自然災害伝承碑とは? — 全国2,481基の位置をオープンデータで取り出し、標高と重ねて読む


自然災害伝承碑とは? — 全国2,481基の位置をオープンデータで取り出し、標高と重ねて読む

自然災害伝承碑とは? — 全国2,481基の位置をオープンデータで取り出し、標高と重ねて読む

過去の津波・洪水・土砂災害などの様子や被害を刻んだ石碑やモニュメントのことです。 2019年に地図記号が制定され、地理院地図に載るようになりました。2026年9月24日時点で全国686市区町村・2,481基。しかもこの位置情報はGeoJSON/CSVのオープンデータとして全国分がまとめて公開されており、緯度経度を持った点群として自由に扱えます。座標を扱う側から見ると、これは「読み物」ではなくデータセットです。

地図記号ができたのは2019年

国土地理院が「自然災害伝承碑」の地図記号を制定したのは2019年。同年6月19日から地理院地図への掲載が始まりました。

このときの初回公開は48市区町村の158基でした。約200市区町村が公開準備中とされていた段階です。

時点 掲載市区町村 碑の数
2019年6月19日(掲載開始) 48 158
2026年9月24日 686 2,481

7年ほどで15倍以上に増えています。増え方に注意が必要な理由は後述します。

データはオープンデータとして全国分まとめて取れる

地理院地図の画面で1基ずつクリックする必要はありません。国土地理院は、掲載中の伝承碑を日本全国まとめた1ファイルを GeoJSON形式とCSV形式で提供しています(提供開始は2020年8月21日)。

収録されている項目は次のとおりです。

項目 内容
ID 碑ごとの識別子
碑名 石碑の名称
建立年 建てられた年
所在地 住所
災害名 伝承している災害の名前
災害種別 洪水・土砂災害・津波・高潮・地震・火山災害など
伝承内容 碑文が伝えている内容
アイコンの位置座標 10進の経度・緯度
公開日/修正公開日 地図に載った日・修正した日
制限事項 利用上の制限

座標が10進度の経度・緯度で入っているのが実務上ありがたいところです。度分秒からの変換も、独自コードの解読もいりません。そのままGISへ持ち込めます。

なお「公開日」「修正公開日」「制限事項」の3項目は2024年1月25日に追加されたものです。古い手元のコピーを使い回していると、この3列が無い点に注意してください。掲載写真そのもののダウンロード提供は行われていません。

位置だけでは足りない。標高を足すと見え方が変わる

碑のデータに入っているのは水平位置だけです。高さの列はありません。

ところが国土地理院自身が、このデータの活用例として挙げているのが「自然災害伝承碑の分布と標高の関係」——災害種別ごとに色分けした碑を、自分で作る色別標高図や陰影起伏図・傾斜量図の上に重ねた図です。つまり、標高を後から足すことが前提の使い方が公式に示されています。

手順は単純です。

  1. GeoJSON/CSVから緯度経度を取り出す
  2. 各点の標高を、標高APIまたは標高タイルから引く
  3. 災害種別で色分けして、色別標高図や陰影起伏図に重ねる

標高の取り方は2通りあり、同じ地点でも値が違うことがあります。その違いは 緯度経度から標高を取るAPIはどれ?(GeoConverter Pro) にまとめてあります。数百点をまとめて処理するなら、1点ずつAPIを叩くよりDEMタイルを先に落として一括で引くほうが現実的です。

そして、ここで出てくる「標高」がどの面から数えた高さなのかは、いつもの三段重ねです。

楕円体高・ジオイド高・標高の関係を示した断面図

碑の標高は東京湾平均海面を基準にした値、GNSSで現地を測れば出てくるのは楕円体高。同じ「高さ」という言葉でも基準面が違います。

碑の標高=浸水した高さ、ではない

ここがいちばん誤読しやすいところです。碑が立っている地点の標高を、そのまま「ここまで水が来た高さ」として読んではいけません。

  • 碑は被災した場所に建てられていることが多い——が、常にそうとは限らない。寺社の境内、学校、集落の入口など、人の目につく場所へ建てられることもある
  • 道路工事や区画整理で移設されたものがある
  • 津波碑のように「ここより下に家を建てるな」と境界を示す意図で、被災地点より高い場所に建てられたものもある
  • 碑文が示すのは高さではなく、出来事と教訓であることが多い

つまり標高との重ね合わせは「分布の傾向を見るための道具」であって、1基ごとの浸水深を出す道具ではありません。国土地理院の活用例も、個別の高さではなく分布と地形の関係を見る図として提示されています。

「載っていない=無い」ではない

もうひとつ、データの性質として押さえておくべき注意があります。

伝承碑の掲載は、市区町村が自ら把握して国土地理院へ申請する方式です。国土地理院が全国を調査して回っているわけではありません。国土地理院自身も次の2点を明記しています。

  • 掲載されていない地域であっても、自然災害伝承碑が存在しないとは言えない
  • 伝承碑が存在しない地域であっても、災害リスクがない安全な地域とは言えない

碑の数を市区町村別に集計して「この地域は災害が少ない」と読むのは誤りです。その数字は災害の頻度ではなく、自治体の申請状況を映していると考えたほうが実態に近くなります。冒頭の「7年で15倍」も、碑が増えたのではなく申請が進んだということです。

現場で使うとき

RTKで測っている立場から、実務的な使い道を3つ挙げておきます。

  • 調査前の下見リストとして。 対象地域の碑を災害種別で抽出し、地形図と重ねておくと、その土地が過去にどんな災害を受けたかを座標付きで把握できる
  • 現地写真と位置の突き合わせ。 碑の前でRTKの点を1つ取っておけば、オープンデータの座標とのずれを自分で確認できる。移設されている碑ならここで気づける
  • ハザードマップとの重ね合わせ。 浸水想定区域のタイルの上に碑を載せると、「想定と過去の実績がどこで一致し、どこで食い違うか」が見える。タイルの取り方は ハザードマップの地図タイルはどこから取る? にまとめてあります

利用にあたっては国土地理院コンテンツ利用規約と、伝承碑データ固有の「ご利用上の注意」の両方を確認してください。掲載写真の一部は第三者に権利があり、二次利用に確認が必要な場合があります。

押さえておくこと

  • 自然災害伝承碑は2019年に地図記号が制定され、同年6月19日に48市区町村158基から掲載が始まった。2026年9月時点で686市区町村2,481基
  • 全国分がGeoJSON/CSVで公開されている。座標は10進の経度・緯度。碑名・建立年・災害種別・伝承内容も列として入っている
  • 高さの列は無い。 標高は標高APIまたは標高タイルから後付けする。国土地理院の活用例も「分布と標高の関係」を見る使い方
  • 碑の標高は浸水高ではない。 移設・建立意図のばらつきがあるので、分布の傾向を見る道具として扱う
  • 載っていない=無い、ではない。 掲載は市区町村の申請ベース。碑の数を災害リスクの指標にしない

地図記号ひとつぶんの話に見えて、中身は緯度経度2,481点のデータセットです。標高を足して地形と重ねたとき、先人が石に刻んだ場所選びの意味が、ようやく数字として見えてきます。

本記事の掲載数(686市区町村2,481基)は2026年9月24日時点の公表値です。データは随時追加・修正されるため、利用時には最新版を取得してください。

出典

  • 国土地理院「自然災害伝承碑」(更新情報・留意点) https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html
  • 国土地理院「自然災害伝承碑データの提供について」(提供形式・収録項目) https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi_datainfo.html
  • 国土地理院 報道発表「先人が伝える災害の教訓「自然災害伝承碑」を地図で発信」(2019年6月19日・48市区町村158基) https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/bousaichiri190619_00002.html
  • 国土地理院「新着情報一覧」(2026年9月24日の追加公開) https://www.gsi.go.jp/whatsnew.html
  • 国土地理院「標高API」 https://maps.gsi.go.jp/development/elevation_s.html

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開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。


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