地震で止まった三角点の成果が、なぜ2か月で戻ったのか? — 熊本地震で初めて使われた衛星SARの3次元解析と、それでも改定できなかった範囲


地震で止まった三角点の成果が、なぜ2か月で戻ったのか? — 熊本地震で初めて使われた衛星SARの3次元解析と、それでも改定できなかった範囲

地震で止まった三角点の成果が、なぜ2か月で戻ったのか? — 熊本地震で初めて使われた衛星SARの3次元解析と、それでも改定できなかった範囲

電子基準点だけでは足りなかった「点と点のあいだ」を、衛星SARの面的な変動で埋めたからです。 国土地理院は2026年9月25日、令和8年熊本地震で公表を停止していた三角点2,501点の改定成果と、座標・標高補正パラメータを公表しました。パラメータを作るときに「だいち2号」「だいち4号」等のSAR干渉画像による3次元解析結果を初めて活用し、従来は約半年かかっていた公表までの期間が約2か月に短くなっています。


何が、いつ公表されたのか

まず事実を時系列で押さえます(すべて国土地理院の発表、2026年9月時点)。

日付 何が起きたか
2026年7月28日 令和8年熊本地震が発生
2026年7月30日 大きな地殻変動が確認された地域で、電子基準点・三角点・水準点等の測量成果の公表を停止
2026年8月14日 電子基準点(本点)23点・電子基準点(付属標)22点の改定成果を公表
2026年9月25日 三角点2,501点(一等〜四等)の改算成果と、座標・標高補正パラメータを同時公表
(予告) 断層近傍等で改定できなかった地域は三角点の復旧測量を実施。水準点の改定成果は来年3月末に公表予定

基準点成果が「止まる」ときで書いた「停止」から、電子基準点→パラメータ→三角点という段取りを経て、その最後の段が実際に公表された——というのが今回です。前回の記事で「9月上旬公表予定」と書いた部分は、9月25日の公表が実績値になります。

なお改定した範囲は、公表を停止した範囲よりも広い点に注意してください。国土地理院は「停止範囲は実施中の測量への影響が最小限になるように」定めた一方で、改定範囲は「今後の測量の品質がより良いものとなるよう」一定以上の変動が認められた市町村を対象に広く取っています。つまり、止まっていなかった点の成果も変わっている可能性があります。


なぜ、これまでは約半年かかっていたのか

止まった成果を戻す作業は、測る側の依存関係に縛られます。

  • 電子基準点は連続観測しているので、地震後も比較的早く新しい座標が出せる。今回も約2週間で23点が改定された
  • 三角点・水準点は一つひとつ現地へ行って測る点なので、被災地全域をすぐには測り直せない
  • そこで「先に確定した電子基準点の動きから、周辺の点がどれだけ動いたかを面的に推定するパラメータ」を作り、それで三角点の成果を計算し直す

問題は、電子基準点の密度です。

日本列島に分布する電子基準点を網でつないだ図

電子基準点は全国に均等に散らばった「点」の集まりで、間隔は数十km規模です。プレート運動のようになめらかな変動なら、点のあいだは素直に補間できます。ところが内陸の地震で地盤が複雑に変動した場合、断層をまたいだところで変動が不連続に切り替わり、点のあいだを補間で埋めきれません。

国土地理院はこの状況を「これまでは電子基準点の観測だけでなく、現地での測量結果を用いて補正量を求める必要があった」と説明しています。その現地測量が入ることで、改定・公表までに約半年を要していました。


干渉SARは「点のあいだ」を埋める道具

衛星SAR(合成開口レーダ)は、電波を地表へ照射して跳ね返りを受け取る観測です。2時期の観測を干渉させると、そのあいだに地表が動いた量が面として得られます。電子基準点が「点で正確」なのに対して、干渉SARは「面で網羅的」という関係です。

ただし、そのまま3次元の変動が出てくるわけではありません。国土地理院の解説によれば、干渉SARで捉えられるのは衛星と地表を結ぶ視線方向の距離変化だけです。そこから東西・南北・上下を取り出すために、複数の観測を組み合わせます。

手法 何をするか 得られるもの
2.5次元解析 南行軌道の西向き観測と北行軌道の東向き観測を合成 準東西方向・準上下方向(衛星の進行方向が南北から数度ずれるため「準」)
MAI法 2枚のSAR画像から衛星進行方向(アジマス)の変位を計測 進行方向の変位
3次元解析 4方向(南行・北行 × 右/左照射)の視線方向変動量を最小二乗法で解く 東西・南北・上下の各成分

今回のパラメータ作成に使われたのは、この3次元解析の結果です。使われた衛星は「だいち2号」(2014年〜)と「だいち4号」(2024年〜)。面的な変動が先に分かっていれば、点のあいだを埋めるための現地測量を大幅に減らせます。それが約半年→約2か月の短縮の中身です。

国土地理院は「今後、内陸部で複雑な地盤変動を伴う地震が発生した場合には、衛星SARを活用した新たな手法による迅速な測量成果の改定を検討する」としています。今回が例外ではなく、次からの標準になり得るという書き方です。


それでも改定できなかった範囲がある

ここが現場では一番重要です。今回、パラメータの作成も三角点の成果改定もできなかった地域が残りました。

国土地理院の公表範囲図で白抜きになっているのは、次の地域です。

熊本市の一部、八代市の一部、宇城市の一部、美里町の一部、御船町の一部、嘉島町の一部、益城町の一部、甲佐町の一部、および氷川町

理由は「地震により局所的で複雑な変動が生じているため」。断層近傍のほか、液状化・地すべり・地割れ等の局所的な地盤変動が起きた場所が該当します。

面的な観測で埋められるのは「なめらかに、あるいは断層をまたいで系統的に」動いた変動までです。数十m四方で地面が割れた・すべった・沈んだという変動は、面の補間に乗りません。こうした地域については、国土地理院は三角点の復旧測量を実施すると予告しています(2026年9月25日更新)。

現場としての読み方はこうなります。

  • パラメータがある範囲:地震前の公共基準点の成果を、補正パラメータで地震後の成果へ補正できる(この改算は公共測量に該当します)
  • 白抜きの範囲:補正では戻せない。復旧測量の成果を待つか、必要な精度に応じた別の段取りを組む
  • 水準点(標高):改定成果は来年3月末予定。標高が要る仕事は、この時期をにらんで計画する

補正計算はどこでできるか

公表された座標・標高補正パラメータは、国土地理院の測量計算サイトで使えます。

  • No.7 PatchJGD(水平位置の補正)
  • No.8 PatchJGD(標高版)(標高の補正)

パラメータファイル自体も「座標標高補正パラメータファイル一覧」からダウンロードできます。補正パラメータが中身としてどういうファイルなのか——緯度経度の格子に、各節点の補正量が並んでいる——はパラメータファイルの構造の側で扱っています。

現場で気をつけるのは、どの版の成果を使っているかを記録に残すことです。同じ三角点が、9月25日をまたいで別の座標値を持ちます。図面や観測手簿に「改定前」「改定後」のどちらを採ったかが書かれていないと、あとから照合できません。


まとめ

  • 2026年9月25日、令和8年熊本地震で止まっていた三角点2,501点の改算成果と座標・標高補正パラメータが公表された
  • パラメータ作成に「だいち2号」「だいち4号」等のSAR干渉画像による3次元解析結果を初めて活用。従来約半年だった公表までの期間が約2か月になった
  • 干渉SARが得るのは視線方向の距離変化だけで、4方向の観測を最小二乗法で解いて3成分に分ける
  • 断層近傍や液状化・地すべりが起きた9市町の一部は改定できず、三角点の復旧測量で対応する
  • 改定範囲は公表停止範囲より広い。止まっていなかった点も成果が変わっているので、使う前に版を確認する

出典

  • 国土地理院「衛星SARを活用し、熊本地震後の測量成果を迅速に改定しました」(2026年9月25日) https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/20260925_R8kumamoto_seika.html
  • 国土地理院「令和8年熊本地震に伴う基準点成果の取扱いについて」(最終更新 2026年9月25日) https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/R8-kumamoto-earthquake-seika.html
  • 国土地理院「干渉SAR」 https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/gsi_sar.html
  • 国土地理院「3次元的な変動把握」(2.5次元解析・MAI法・3次元解析) https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/sar_3d.html
  • 国土地理院「座標標高補正パラメータファイル一覧」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/sokuchikijun41012.html

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開発者より: アプリ・Kindle本・公開プロジェクトの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。


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