はじめに
iOSアプリ Geo(=GeoDiveExa,GeoConverterPro)では、日本の複数の測地系間での座標変換機能を実装しています。本記事では、その精度を国土地理院公式ツール PatchJGD と比較検証した結果を報告します。
背景
日本では大地震による地殻変動に伴い、測地系の更新が行われてきました。代表的な測地系は以下の通りです:
- JGD2000(2002導入)
注意:実際には補正パラメータは市町村により適用範囲があるので参考程度に見て下さい。 - JGD2011(2011年東北地方太平洋沖地震後導入)
- JGD2024(JGD2011にジオイド2024を適用した測地系。緯度経度はJGD2011と同じ)
- JGD2024B(2011年以降の地震を反映する仮の座標系でGeoDiveExa/GeoConverterProで使用する)
注意:実際には補正パラメータは市町村により適用範囲があるので参考程度に見て下さい。
参考:🗾 日本の測地系の変遷と実務対応:TOKYOからJGD2024Bまで
これらの変換には、地震補正パラメータファイル(parファイル)が用いられます。
検証方法
- 使用DB: jgdMerge2011.db, jgdMerge2024.db
参考:JGD2000 ~JGD2024までの地震変動パラメータの可視化 - 比較対象: PatchJGDの変換結果
参考:Web版PatchJGD - 差分算出式:
度を秒に変換する。1秒約30mとして以下の式で差分をcmに変換する
差分(cm) = (Geo座標 – PatchJGD座標) * 3600 * 30 * 100
検証結果
🔹 JGD2011 → JGD2000 逆変換テスト
注意:実際には補正パラメータは市町村により適用範囲があるので参考程度に見て下さい。
このテスト結果はテスト位置が微妙なエリアでは無いために、良好な結果になってます。

<対象地震>
十勝沖地震
福岡県西方沖地震
能登半島地震
新潟県中越沖地震
岩手・宮城内陸地震
宮古島近海
東北地方太平洋沖地震
| 地点 | 地震補正ファイル | Geo結果 | PatchJGD結果 | 緯度差分 | 経度差分 | 評価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 十勝B(佐呂間町) | tokachi2003b.par | 44.03892138, 143.77012051 | 44.038921381, 143.770120503 | 0.01cm | -0.08cm | ✅ 優秀 |
| 十勝(帯広) | tokachi2003.par | 42.92380290, 143.19609779 | 42.923802892, 143.196097794 | -0.09cm | 0.04cm | ✅ 優秀 |
| 仙台 | touhokutaiheiyouoki2011.par | 38.26025397, 140.73996777 | 38.260253967, 140.739967781 | -0.03cm | 0.12cm | ✅ 優秀 |
| 岩手県平泉 | iwatemiyaginairiku2008.par | 38.98446116, 141.07389075 | 38.984448636, 141.073921478 | 0.63cm | -2.60cm | ⚠️ 要注意 |
| 東京 | touhokutaiheiyouoki2011.par | 35.68100007, 139.76699632 | 35.681000067, 139.766996317 | -0.03cm | -0.03cm | ✅ 優秀 |
| 福岡 | fukuoka2005.par | 33.58671040, 130.40432920 | 33.586710406, 130.404329200 | 0.06cm | 0.00cm | ✅ 優秀 |
| 宮古島 | miyakojima2008.par | 24.80500383, 125.28099984 | 24.805003811, 125.280999808 | -0.21cm | -0.35cm | ✅ 良好 |
🔹 JGD2011 → JGD2024B 変換テスト
注意:実際には補正パラメータは市町村により適用範囲があるので参考程度に見て下さい。
このテスト結果はテスト位置が微妙なエリアでは無いために、良好な結果になってます。

<対象地震>
熊本地震
能登半島地震
能登半島地震(補完)
日向灘地震
| 地点 | 地震補正ファイル | Geo結果 | PatchJGD結果 | 緯度差分 | 経度差分 | 評価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 能登(かほく市) | noto2024_02BL.par | 36.71979997, 136.70669978 | 36.719799967, 136.706699781 | -0.03cm | 0.01cm | ✅ 優秀 |
| 能登(湯沢町) | noto_BL2024.par | 36.92652090, 138.81041389 | 36.926520894, 138.810413900 | -0.06cm | 0.11cm | ✅ 優秀 |
| 熊本(宇土市) | kumamoto2016_BL.par | 32.65415952, 130.68024078 | 32.654159514, 130.680240800 | -0.06cm | 0.22cm | ✅ 良好 |
| 宮崎 | hyuganada2024_BL.par | 31.90799957, 131.42400077 | 31.907999572, 131.424000764 | 0.02cm | -0.06cm | ✅ 優秀 |
統計まとめ
JGD2011→JGD2000(逆変換)
- 優秀(<1cm):6地点(85.7%)
- 要注意(≥2cm):1地点(14.3%)
- 平均誤差:緯度 0.09cm, 経度 0.51cm
- 最大誤差:緯度 0.63cm, 経度 2.60cm(岩手県平泉)
JGD2011→JGD2024B
- 優秀(<1cm):4地点(100%)
- 平均誤差:緯度 0.03cm, 経度 0.08cm
- 最大誤差:緯度 0.06cm, 経度 0.22cm
考察
- 高精度: GeoDiveは11地点中10地点で誤差1cm以下を達成
- 最新測地系対応: JGD2024B変換は全地点で1cm以下
- 課題: 岩手県平泉で2.6cmの誤差 → parファイルや補間アルゴリズムの差異が原因の可能性がある。
- 実際に使用したparファイルを国土地理院のPatchJGDサイトと比べると同じだった。
| 国土地理院Web patchJGD | Geoで使用jgdMerge2011.db |
|---|---|
| tokachi2003.par tokachi2003b.par | tokachi2003.par(東南) tokachi2003b.par(北東) |
| fukuoka2005.par | fukuoka2005.par |
| noto2007_BL.par | noto2007_BL.par |
| chuetsuoki2007.par | chuetsuoki2007.par |
| iwatemiyaginairiku2008.par | iwatemiyaginairiku2008.par |
| miyakojima2008.par | miyakojima2008.par |
| touhokutaiheiyouoki2011.par | touhokutaiheiyouoki2011.par |
| 国土地理院Web patchJGD | Geoで使用jgdMerge2024.db |
|---|---|
| kumamoto2016_BL.par | kumamoto2016_BL.par |
| noto2024_BL.par | noto2024_BL.par |
| noto2024_02BL.par | noto2024_02BL.par |
| hyuganada2024_BL.par | hyuganada2024_BL.par |
技術情報
- アプリ: GeoDiveExa(.NET MAUI),GeoConverterPro(SwiftUI)
- DB: SQLite(SQLite-net)
- 補正方式: バイリニア補間
- 測地系: JGD2000, JGD2011, JGD2024
- 検証日: 2025年11月17日
まとめ
Geo(=GeoDiveExa,GeoConverterPro)の座標変換は PatchJGDと比較して実用上十分な精度を持ち、最新の測地系にも対応できていることが確認できました。今後は誤差が大きかった地点の詳細検証を進め、さらに高精度化を目指します。
注意:実際には補正パラメータは市町村により適用範囲があるので参考程度に見て下さい。
追加情報:🛠 地震補正ファイルとは?
- patchJGD は国土地理院が提供する座標補正ツール
- 地震や地殻変動による座標のズレを補正するために使う
- 補正値は「地震補正パラメータファイル」として年度ごとに公開されており、観測座標を基準座標系に揃える役割を持つ
- 補正パラメータは市町村により適用範囲があるので境界付近での使用には注意して下さい。
追加情報: 2011年前後の意味
2011年以前
- 基準は JGD2000
- 大地震前の座標系に基づいて測量成果が整備されていた
- 補正ファイルを使うことで「観測座標 → JGD2000」への変換が可能
2011年以降
- 東日本大震災を契機に JGD2011 が導入
- 震災後の地殻変動を考慮した新しい基準座標系
- 2012年以降の補正ファイルは「観測座標 → JGD2011」への変換を目的とする
追加情報:PachJGD 使い方のイメージ
- 通常利用(正方向変換)
- GPS観測座標 → patchJGD補正 → JGD2011座標
- 逆変換(過去座標の復元)
- JGD2011座標 → patchJGD逆補正 → JGD2000座標(近似的)

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